クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2015/5/6 魔弾の射手

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2015年5月6日   ザクセン州立歌劇場(ゼンパーオーパー)
ウェーバー  魔弾の射手
演出  アクセル・ケーラー
ミヒャエル・ケーニッヒ(マックス)、アルベルト・ドーメン(クーノー)、ゲオルグ・ツェッペンフェルト(カスパール)、クリスティーナ・ランツハマー(エンヒェン)、サラ・ヤクビアク(アガーテ)、アドリアン・エレート(オットカール)、アンドレアス・バウアー(隠者)   他
 
 
 間違いなく今回の旅行のベストであり、ハイライト。
「この曲を聴くのなら、このオペラを観るのなら、絶対にココ」というのがあると思う。「ばらの騎士ならウィーン」とか「マイスタージンガーならミュンヘン」とか「オテロならミラノ」とか・・・。
 
「魔弾の射手」を観るのなら、私はドレスデンだと思う。いかにもドイツっぽいこの古典オペラは、古き良き伝統を守っているドレスデンこそふさわしい。
 おそらくそういうイメージが私に植え付けられているのは、このオペラCDの決定盤とも言えるクライバーの録音があるからかもしれない。もちろんオーケストラはシュターツカペレ・ドレスデン
 
 そして今、クライバーを彷彿させるカリスマ・ティーレマンが、同じシュターツカペレ・ドレスデンのシェフとしてピットに入り、このオペラを振る。歌劇場のシーズンスケジュール発表でこの公演のことを知り、即座に私のGW旅行の行き先が決まった。チケットを押さえたのは昨年の6月。約一年も前のこと。その時点では他の行き先なんて全然決まらない。ただドレスデンに行くことだけが決まった。これこそが、私の思い入れの強さだ。ストライキなんかに負けてられないのである。
 
 序曲。これだけで震えが来た。桁外れの演奏!この序曲だけでもチケット代の元が取れたかと思った。ピットから聞こえるドイツの深い森。シュターツカペレ・ドレスデン、上手い上手い。ステージ上ではないのに、伴奏ボックスの中なのに、みんなバリバリ弾いているし、ブイブイ吹いている。ピットを覗き込むと、オケ奏者一人ひとりの身体が躍動していた。
 
 そりゃそうだ。オケの演奏能力を最高度に引き出すことが出来る指揮者が振っているのだから。
 ティーレマンはいつものようにグイグイとオケを煽る。時に行き過ぎていると判断した瞬間、さっと手をかざす。すると熱を帯び過ぎたオーケストラは瞬時に収縮する。なんという鮮やかなコントロール。もう魔法としか言いようがない。
 
 舞台装置は非常に重厚。スケールが大きく、堂々たるものだ。なんとなくゼンパーオーパーの威信が感じられる。舞台後方にしっかりとした森を作っているのがミソで、この物語の影の主役であることを明示する。悪魔ザミエルを呼び出す真夜中の不気味さも、ゾッとするくらいの効果バツグン。
 
 基本的にオーソドックス路線でありながら、よく見ると、所々で気になることがあった。集団喧嘩のシーンが挿入されたり、居酒屋で働く女性(黙役。障害を持っているように見える。)に暴力的な振る舞いをしたり・・・これらは筋書きにはない設定である。
 この物語は、村人がコンテストに失敗したマックスを冷やかすシーンで始まる。そうした村人の荒っぽい姿を通じて、人間の表と裏、善人と冷酷者の二面性が潜むことを強調させたのだと思う。見逃せない演出の意図であろう。
 
 合唱もとてもスケールが大きく、迫力があって、非常に心地よい。やっぱりオペラは合唱が上手いと、公演の水準が一段上に引き上がる。
 
 歌手の中でもっとも良かったのは、悪役を演じたツェッペンフェルト。たぶんそうなるんじゃないかな、と予想していた。いつもながら本当に上手い。脇役であってもたいてい主役を食ってしまう。演技も抜群。
 ドーメンは安定していて存在感もあるのだが、どの役をやってもみな同じ歌いっぷりなのが、少々難。そういう顔だから仕方がないのかもしれないが、表情が暗くて冴えない印象が損をしている。もったいない。いい歌手だとは思うだけど。
 このところポツポツと主要劇場のキャストに名前を見かけるようになってきたヤクビアクは、これから益々の活躍が期待できそう。一方、主役マックスを歌ったケーニッヒは歌も演技もイモ(笑)。これも相変わらず。
 
 ところでこの日、劇場に向かう前、ホテル内で日本人の方に声をかけられた。
「バーデン・バーデンに行かれませんでしたか?そちらでお見かけしたような気がします。」
 私はヴィースバーデンに行っていたので、一瞬ドキッとしたが、多分先方の勘違いだった様子。でも私と同様、音楽を求めて徘徊中のお方だった。鉄道ストライキに遭ってしまい、ベルリンからバスに乗って必死に駆けつけたとのこと。とはいえチケットは事前入手できておらず、開演直前のリターンチケットに賭けるとおっしゃっていた。
 果たしてオペラをご覧になることが出来たであろうか?
 こういうのは「観たい」という意欲が強ければ強いほど観られる。私はそう信じている。私と同類ならきっとその意欲を持っていただろうし、ならばきっと幸運を手に入れられたであろう。