指揮 セバスティアン・ヴァイグレ
演出 ウーヴェ・エリック・ラウフェンベルク
「影のない女」は相当鑑賞しているつもりだ。日本ではほとんど上演されないので、海外に出向く。ロンドン、ミュンヘン、ウィーン、パリ、マドリード、チューリッヒ、ハンブルク、トゥールーズ、マンハイム、フランクフルト・・・自慢げに全部挙げても仕方がないが、少なくとも海外に15回は行っているだろう。
なぜそこまでのめり込んでいるのか。
単純に好きなのだ、この音楽が。愛の賛歌をこれほど壮大に築く音楽を私は他に知らない。
だから、この作品を軽く聴き流すことなど、とても出来ない。ものすごい力で激しく揺さぶられる。「感動する」は英語でmoveという動詞を使うようだが、本当に私は体が動いてしまう。やがて涙でボロボロになり、舞台がよく見えなくなり、鼻水が垂れてきて、「ズーッ」とすする音が出ないようにいつも必死に堪える。
要するに私はこの作品を聴いて、ぶっ壊れたいのだ。
この曲は、自分がぶっ壊れることが出来る稀有な作品なのだ。
ところで、これまでたくさん観て、どの舞台にも必ずと言っていいほどの共通点があることに気づいている。
第三幕の大団円では、余計な演出、余計な動きが取り払われ、絶対、必ず、カンタータのようにすべてが音楽に委ねられるということだ。最後の場面で、余計な動きを採り入れることなど不可能ということは、どんなにアホな演出家でも分かるということだろう。
・・なんだかヴィースバーデンの感想というより作品の個人的思い入れになってしまったが、要するに今回の舞台も、なんだかんだ言って結局最後に音楽が勝った。そして愛が勝った。ただそれだけだった。以上っ!
・・と終わらせる前に、やっぱり歌手についてもいちおう言及しとこ(笑)。
ヘ・ル・リ・ツィ・ウ・ス!!! なんという歌手!! まさに神!!
他の歌手も素晴らしかったなあ。
ゾッフェルは大ベテランだけど、衰え一切なし。あまりの貫禄に皆たじたじ。ライアンはまさにヘルデンテノール。声が超カッコイイ。バイロイトで観たジークフリートではかつらを被っていたため、もっと若い人かと思っていたら、今回すっぴんで登場して「あらら??」でした(笑)。
ところでこの日、演奏中にハプニングがあった。
「鷹」を演じた歌手が歌う出処を逃してしまい、落っこちてしまったのだ。舞台上にプロンプターボックスはない。歌手は助けを求められず、硬直したまま。音楽をよく知らない人は気が付かなかっただろうけど、私はどうなるのかとハラハラした。
すると指揮者ヴァイグレが大きな声を出して歌詞を伝え、入るタイミングを指示した。歌手は何事もなかったかのように音楽に復帰した。
こういうミスは滅多に見たことがない。とにかく驚いた。それにしても、まさにこういう危機の時、指揮者の瞬時の対応能力が如実に示されると改めて分かった。