クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2015/5/1 ねじの回転

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2015年5月1日   ヘッセン州立歌劇場ヴィースバーデン(国際5月音楽祭)

ブリテン  ねじの回転

指揮  ツォルト・ハマー

演出  ロバート・カーセン

クラウディア・ロールバッハ(家庭教師)、ヘレン・ドナート(グロース夫人)、トーマス・ピフカ(ピーター・クィント)、ヴィクトリア・ランボーン(ジェセル)、ステラ・アン(フローラ)、ヨリック・エーベルト(マイルズ)

 
 
 「ねじの回転」は室内楽オペラである。この日、ピット内のオーケストラプレーヤーはたったの13人だった。弦楽器なんか各パートに一人ずつのみ、木管も持替えが多い。フェスティバルのプレミエ演目という意味では、少々寂しい感じかもしれない。しかも、おばけの話(笑)。

 

 だが、こうしたなかなか上演されないオペラを鑑賞するのも、海外遠征の醍醐味というもの。

 

 更に今回期待に輪を掛けたのが、演出が世界的なカーセンだったこと。ただの怪談にはならないだろうことは容易に想像がつく。実際、そのとおりであった。
 
カーセンが着目したのは、幽霊が見える人間の深層心理。

登場する4人の‘生きている’人間のうち、実際に幽霊が見えるのは3人。この3人には共通点がある。

それは心に刺が引っ掛かっているということ。どうやらその刺が幽霊の出現を巻き起こす正体ということらしい。

 

 主役の家庭教師は少年少女の保護者かつ自身の雇用主に恋心を抱いており、その恋心が性的妄想となって暴れ出す。

 ただし、この点はヘンリー・ジョーンズの原作においてもそのように読み取ることは可能だし、そこら辺の普通の演出家でも見つけることが出来るだろう。

 

カーセンの推理、解釈はもう少し先を行く。

家庭教師だけでなく、それではなぜ幼い兄妹マイルズとフローラにも幽霊が見えるのか。

実は、彼らの心の中にも刺があったのだ。

 

 彼らは子供であり、まだ大人の恋が何なのか、分からない。大人の男女が愛し合った時、何をするかを知らない。いや、ひょっとすると、薄々は知っていたのかもしれないが・・・。

 そんな彼らは目撃してしまったのだ。男と女の生々しい営みを。今の家庭教師が赴任する前、生前のピーター・クウィントとジェスルがしていたことを。

 この時の衝撃が二人のトラウマになっている。幽霊の正体は、激しいショックと、それによって蝕まれてしまった純粋な心だったというわけだ。さすがカーセン、ユニークな解釈である。一部、過去の演出でやった手法の使い回しが見られたが、まあ許す(笑)。

 

 歌手について。

 主役、家庭教師のロールバッハが極めて演劇的な立ち振舞いで、観ている人を物語にのめりこませてくれた。歌唱も素晴らしい。ドイツ人だ(と思う)が英語の発音がとってもイングリッシュで、完璧。カーテンコールではたくさんのブラヴォーをもらっていた。

 家政婦のヘレン・ドナートは大ベテラン。随分とお歳を召された感じだが、若い頃には彼女も家庭教師役を務めたことがあり、その録音が残っている。

 フローラのアンはその名の通り韓国系だが、アジア人特有の「見た目が若い」で得をした。本当に少女そのもので、イメージ通りのキャラクターを演じている。マイルズ役のボーイソプラノドルトムントにある少年合唱団に所属している少年だが、非常に上手い。ひょっとすると、20年後、オペラ歌手として活躍しているかも!? もっともそんな先までこちらがチェック出来る保証はないが(笑)。

 

 なお、カーテンコールで、カーセンは登場しなかった。今回の振付は演出助手が務めた模様。ということは、ヴィースバーデンのための新演出ではなく、どこかからの貸出公演ということか。別にそのこと自体は私にとって大した問題ではないが。