指揮 マレク・ヤノフスキ
以前にも何かの記事に書いたかもしれないが、ブル8は私にとって特別な曲だ。かつて所属していた大学オーケストラでこの大曲にチャレンジし、全力で演奏に取り組んだ作品である。
この曲を聴くと、当時のことが頭に浮かぶ。青春の思い出の曲なのだ。
と同時に、私自身がセカンドヴァイオリンのパートトップだったこともあり、このポジションの奏者に目が釘付けになってしまう。今でもパート譜は頭に叩きこまれており、自然に指が動く。(もちろん実際には動かさないよ。)
プロ奏者の演奏に自らを重ね合わせ、目の前の合奏に参加している夢想(妄想?)につい浸ってしまうのである。
ベルリン放送響のセカンドヴァイオリン首席奏者の女性は、おしとやかに弾くのではなく、タクトに喰らいつくかのように積極果敢に弾いていた。
そうなのだ、そう弾いてほしいのだ。そう弾くべきなのだ。私もそういうスタイルを目指していた。ここの部分は力を込めて、ここの部分は情熱的に・・・。
妄想はどんどんと肥大化していく(笑)。
そんなわけでこの曲は客観的に聴くのが難しいのであるが、そうは言ってもこれは巨匠ヤノフスキ指揮による外来オケ公演なので、冷静になって感想を書いてみたい。
今回の8番は、やはりオケが違うせいか印象はずいぶんと違う。ただ、「あ、同じアプローチだな」と感じる部分がある。変にいじくったり、飾ろうとしたりしない。原点回帰。これがヤノフスキのブルックナーだ。
その姿勢は、どことなく和食の達人の気質を彷彿させる。ソースやたれによって味付けするのではなく、素材そのものを活かす職人技。頑固で無骨だが、一本筋の通ったこだわりの名品。
当然のことながら、聴く側にも真剣さが求められる。襟を正して対峙した時、そこに「音楽の本質」が見えた。
こうして演奏を聴き終えて残ったのは、清々しく、そして潔い後味であった。