クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2015/1/2 マリア・ストゥアルダ

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2015年1月2日  バルセロナ・リセウ歌劇場
指揮  マウリツィオ・ベニーニ
演出  パトリス・コーリエ  モーシェ・ライザー
ジョイス・ディドナートマリア・ストゥアルダ)、シルヴィア・トロ・サンタフェ(エリザベッタ)、ハヴィエル・カマレナ(ロベルト・レスター伯爵)、ミケーレ・ペルトゥージ(タルボ)、ヴィート・プリアンテ(セシル)   他
 
 
 二人の歌手に注目していた。
 
 ディドナート。
 12年前、新国立劇場が上演したセヴィリアの理髪師で、ロジーナ役で出演した時のことをはっきりと記憶している人が果たしてどれだけいるのだろうか。(かく言う私もイマイチ鮮明でない。)
 それが押しも押されもせぬ世界トップ級歌手にまで成長した。メトの顔とも言うべき花形歌手の一人であり、ディドナートがキャストに名を連ねるだけでその公演に箔が付く。
 当初はロッシーニスペシャリスト的な扱いだったが、バロックからベルカント、R・シュトラウスまでどんどんと幅を広げてきた。未だに進化の過程にあるが、既に‘メゾ・ソプラノ’という枠を超越しており、いずれ別格の存在になるのは間違いない。この秋、ロイヤル・オペラ・ハウスの来日公演キャストにも名前を連ねていて、ドンナ・エルヴィーラを披露することになっている。
 
 カマレナ。
 おそらく日本ではその名がまだ十分に浸透していないと思うし、私自身も本公演までは未体験だったが、世界中で大絶賛を博しているメキシコ出身のテノール
 聞こえてくる評判はどれもこれもすごい。リリコからスピントまでこなし、その声の美しさと威力は聴いている人の息をはっと飲ませるほどで、一度聞いたら忘れられないとの噂だった。
 
 スイスからこの一公演のためにバルセロナに渡ったのは、この二人の華麗なる競演を是非とも鑑賞したいがため。期待の度合いは上昇の一途であった。
 
 その結果は、もちろん期待に違わぬ出色の出来。二人の素晴らしい歌唱に十分に聞き惚れることが出来た。バルセロナに来た甲斐があった。
 
 特にカマレナ。なるほど、これが噂に聞くカマレナか・・・。大絶賛も頷ける。
 
 その歌声について言い表すと、「痺れる」「ビビビッと来る」みたいな感じなのである。
・・・スマン、もうちょっとマシな表現が出来ないのかと我ながら情けなくなるが、でも本当にそんな感じなのだ。結構これが的確だったりする。是非、イメージを膨らませて欲しい。
 
 ディドナートは、役の内面的な感情表現が絶品。気高く、死んでも誇りと尊厳を守り貫く強さと、女性として愛にすがりつきたい弱さの両面を見事に歌にして、聴衆の絶大な喝采を呼んでいた。
 
 上のお二人につい注目が行ってしまったが、エリザベッタ役のトロ・サンタフェも素晴らしかった。彼女も近年、世界的な歌劇場でポツポツとその名前を見かけるが、なるほどさもありなん。更なる成長と飛躍が期待できそうだ。
 
 本プロダクションは、コヴェント・ガーデン、ワルシャワポーランド国立、パリ・シャンゼリーゼ劇場との共同制作。先行して上演したコヴェント・ガーデンの評が既に伝わってきているが、演出についてはあまり芳しい評判ではなかった。
 確かに、一見すると現代に置き換えていながら、エリザベッタとマリア・ストゥアルダの二人だけが史実当時の衣装をまとうなど、チグハグ感が否めない。おそらく「伝統という名の古めかしい格式は、時代錯誤や疎外感、閉塞感を生み出していく」というメッセージだと思うのだが、はたしてそれがどれほど観客に届いたのか。少々疑問だ。
 
 しかし、序曲が奏させる前の冒頭にマリアの斬首刑シーンを見せ、ここをクライマックスに置いた上で、そこに至るまでの経過と流れを作っていくやり方は、私は別に悪くないと思った。
 特にこのオペラの場合、ドラマチックで固唾を呑むシーンが多い第1部に比べ、マリアの独白シーンが続く第2部は冗長になりがち。本演出では、舞台に首切り役人が待ち構える死刑執行部屋を設け、手を縛られ髪を切られるマリアをそこに佇ませることで、執行に至るまでの緊張感を持続させることに成功していたと思う。
 
 
 リセウ歌劇場は、火災事故を経て再建されたこともあって、美しくかつ機能的だ。この劇場には、幕間などに歓談できる社交ロビーが、メインのほかにバックヤードにも備わっていて、そちらも豪華で贅沢な空間なのだが、今回訪れてみたらサブロビーへの通行はレストラン予約の人もしくは特別御招待の人のみに限っていて、見ることが出来なかったのは残念だった。
 
 なお、すべての演目というわけではないと思うが、この劇場ではチケットの売れ残りが見込まれた場合、「シークレットシート」というスペシャル価格大放出を行うことがある。一律25ユーロ(約4千円)。席はお任せで、二日前にEメールで正式な座席がお知らせされるらしい。結構S席やA席などの良い席が放出されるとの噂。いいじゃないか!
 「チケットが安く手に入るのなら、行ってもいいかな」という地元のライトなファンにとっては、ありがたいサービスだろう。我々のようにかなり前から周到に計画し、高い飛行機代払って欧州を巡るコアなファンにははっきり言って縁がないチケットなわけだが・・・。
 
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 年末年始の旅行記、おわり。