指揮 デイヴィッド・ジンマン
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲
なぜ彼は鬼才と言われるのか。
演奏を聞けば直ちに分かる。クレーメルの音楽は、二つの相反する様相が常に交錯しているのだ。
光と影、鋭敏と遅鈍、前進と後退、熱気と虚無、静謐と激昂・・・。
まるでクレーメルは恣意的に創造と破壊の両方を試行しているように見える。これこそが他の誰にも真似できない孤高の独創性である。
そうしたアプローチが、天上の音楽のようなベートーヴェンに大きな陰影を与えている。
例えば調性の変化の部分だとか、半音フラットの部分だとか、そうした瞬間に突如として裏の表情が擡げてきて、聴き手に緊張を強いる。その結果、あたかもまったく別の曲を聴いているかのような錯覚に陥るのだ。(もちろん、耳に馴染んでいるいつものカデンツァに拠っていない影響も大きい。)
それに比べると、ジンマンのブラームスのなんと純粋無垢なことか。(良い意味でも悪い意味でも)
もしあえてその対比を狙ったのだとしたら唸るしかないが、たぶんそうではないだろう。