指揮 ファビオ・ルイージ
オルフ カトゥリ・カルミナ、カルミナ・ブラーナ
2014年国内最初のコンサートは、意欲的なプログラムと魅力的なキャスト、そして充実した演奏がみごとに結実し、いきなりとびきり上等の名演となった。年が明けておみくじを引いたら大吉が出ちゃったみたいな感じ。N響にとっても、聴いた私にとっても、これは幸先の良いスタートと言えそうだ。
今年は良い事があるかな? なんちゃって。良い事あってほしいっす(笑)。
1曲目のカトゥリ・カルミナ。
そんな曲があることさえ知らなかった。予習もせず、予備知識も持たずに会場入りすると、ステージ上は合唱用のひな壇、打楽器群と4台のピアノ、それに指揮台とソロ歌手用のイスだけ。これはかなり面食らった。つまりオーケストラ曲ではないのだ。オーケストラの定期演奏会なのに。
プログラムの解説を読むと、作曲者オルフは、このカトゥリ・カルミナ、そしてカルミナ・ブラーナ、それにもう1曲を加えて「三部作」としたそうだが、カルミナ・ブラーナだけが有名になり、残りはほとんど演奏されないとのこと。そりゃ確かにこういう編成では上演自体が難しいだろうねえ。
曲を聴いて、思わずニヤリ。編成はどうあれ、音楽はお馴染みのカルミナ・ブラーナにかなり近い。カルミナ・ブラーナしか知らない人にこれを聴かせて「さて問題です。この曲の作曲者は誰でしょう?」というクイズを出したら、かなりの正答率で「オルフじゃね?」となるのではないか。
曲は途中からピアノや打楽器の伴奏がなくなり、ソプラノとテノールと合唱のアカペラ演奏が続いていく。
アカペラ演奏って、すごく難しいと思う。というのは、キー音を伴奏楽器に頼ることが出来ないため、音楽の進行とともに少しずつ音程がずれてくる危険性があるからだ。いかにプロの声楽家たちとはいえ、全員が絶対音感を持っているわけではないだろうから。
でも、もう二度とこの曲を聴く機会はないんだろうなあ。
メインのカルミナ・ブラーナ。
冒頭「オー・フォルトゥーナ!」の高らかなる一撃に、全身にビビッと電気が流れた。
これですよ、これ。1曲目は思わぬ聴き物、掘り出し物だったが、私が聴きたかったのはこれだ。
ああ思い出す、フジテレビで人気番組だった「ほこ×たて」。懐かしい。結構面白い番組だったのにな。あんな形で番組が終わってしまったのは残念・・・って、そんなことはどうでもいいか(笑)。
名演に導いたのは間違いなく指揮者ルイージである。彼が音符に生の息吹を送り込み、作品に魂を宿らせた。感情や情熱がほとばしった曲を演奏させたら、ルイージは天下一品。彼の右に出る者はいないと言っていいだろう。起伏や陰影に富んだ表現の多彩さは本当に舌を巻くばかりだ。
だから各プレーヤーの燃えるような意気込みが手に取るように分かる。もちろん一番燃えているのは指揮者自身だが(笑)。
やたらと繰り返しが多い曲であるが、反復が決して同じにならないような音楽上の仕掛けを講じていることも大きな特徴だ。繰り返しには必然があり、意味があり、同じものではないという明確なメッセージであろう。
児童合唱団、とても良かった。
ソプラノのエルトマン、美しかった(笑)。
あ、いえ、歌も良かったです。
(なんだその『も』っつうのは)
演奏後は爆発的なブラヴォーに包まれた。自分自身が「これはすごいぞ!」と思いながら聴いていて、その思いが正しく裏付けられるかのように観客の熱狂を目の当たりにするのは、我が意を得たりでとても嬉しいものだ。
カーテンコールが終了し、オーケストラが引き上げ、会場が明るくなって、これで公演がすべて終了したと思ったら、上階席の一部のお客さんが拍手を止めず、粘り強く続行していた。
当初、合唱団のお見送り拍手なのかなと思ったが、その合唱団が引き上げても収まる気配がない。つまり、これはルイージに向けた称賛のカーテンコールなのであった。
やがて拍手は連鎖のごとく広まっていき、会場を包み込んでいった。
やっぱりこれは新年早々縁起がいい。いいことあるぞ、今年はきっと。