指揮 フィリップ・ジョルダン
合唱 パリ・オペラ座合唱団
ユリア・クライター(ソプラノ)、ミヒャエラ・シュスター(メゾ・ソプラノ)
フィリップ・ジョルダンは、かつてグラーツ歌劇場で彼が振ったパルジファルを鑑賞した際に非常に鮮烈な印象を残し、当時全く知らなかった若きスイス人に対して「この人は絶対に出世する!」といち早く注目し、目を付けた指揮者であった。(アルミン・ジョルダンの息子であることは、後になってから知った。)
あれから10年。はたして私の先見の明は正しかったのか。
確かに世界の一流歌劇場の一角を占めるパリ・オペラ座の芸術監督にまで登り詰めたわけだから、出世と言えば出世だろう。
だが、その地位に相応しい名声を勝ち得ているかどうかはよくわからない。パリにおける評判もイマイチ日本に伝わってこない。
もっとも、重要なのは他人の評価ではなくて自分の価値判断なはず。これまで彼のタクトで聴いたのはすべてオペラだったが、今回初めてのコンサートということで、純粋に指揮者の真価を問えるという意味でも注目していた公演であった。
で、今回の感想。
オペラを鑑賞した際も同じ印象を持つのだが、演奏に過剰と思えるほどの強い自信がほとばしっている。妥協を排し、一点の迷いもなく突き進む姿勢が感じられる。その強引さはまことにあっぱれである。
また、表現力がとても豊かで、なおかつ描写的である。音楽の中に起承転結がある。ダイナミックなタクトと併せ、視覚と聴覚の両面でとても判りやすい指揮者だ。
マーラーはこの指揮者にとても合っているような気がした。ソロ歌手や合唱を伴うのだから、アプローチとしてはオペラとそう変わりはないのかもしれない。
おっと、指揮者のことばかりになってしまったが、どうしても触れなければいけないのが、メゾのシュスター。
この人、オペラでは独特の演技とオーラと歌いっぷりで圧倒的な存在感を示す、まるで役者のような歌手だが、コンサートにおいても魅惑たっぷり。
とにかく表情がいいんだな。感動的な音楽に浸ってウットリしている顔もいいし、自分で歌いながら自分の歌に満足し酔っている顔もいい(笑)。
指揮者がちょっと変わった特徴的な音楽作りを始めればニヤリと横目で見るし、オーケストラの見事な演奏が聞こえるとそちらの方を振り返ったり。シュスターの表情を見ているだけで、ステージで何が起きているのかが分かる。いやこの人、本当に最高だ。
オーケストラと合唱は持てる力を存分に発揮し、機能的でフレキシブルな一面を見せつけて快演だった。日本代表(?)の大島莉紗さんもしっかりステージに乗っていました。
そういえば最近はすっかりブログ「パリ・オペラ座からのお便り」は休眠状態になってしまいましたねー。お忙しいのか、もう飽きちゃったのか(笑)。残念ですな。