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2013/10/26 日本フィル

2013年10月26日  日本フィルハーモニー交響楽団横浜定期演奏会   横浜みなとみらいホール
指揮  アレクサンドル・ラザレフ
横坂源(チェロ)
チャイコフスキー  ロココ風の主題による変奏曲
マーラー  交響曲第9番
 
 
 本当は27日(日)の東京芸術劇場の公演に行くつもりでチケットを買っていたのに、急遽仕事が入ってしまい、行けなくなった。どうしても聴きたかったので、慌ててこの公演のチケットを買ったのだが、27日のチケットは結局は人に譲ることも出来ず、無駄になってしまった。まったく今年の4月以降、こんなことばっかりだ。
 
 ただ、行ってよかったコンサートだったので、不平はやめるとしよう。実力が最大限に発揮された日本フィルと首席指揮者ラザレフの強烈な推進力が結実した素晴らしい演奏だった。素直に称賛しようと思う。
 
 以下、マーラーの感想に絞らせてもらうが、とにかくラザレフ色が全面に出た極めてユニークな演奏である。
 
 たぶんラザレフはこの曲を指揮するにあたって、当時の時代背景、作曲家の置かれた環境や精神状態、時代の先取性や創造性などに関する分析をほとんど行っていないんじゃないかと思う。マーラー交響曲を聴くと、どんな演奏でも強烈なマーラーの匂いがするのに、ラザレフが振るとそれがあまり感じられない。
 おそらくラザレフのアプローチが「マーラーが何を訴えたかったか」ではなく、「自分がこの作品をどう捉えたか」にこだわった結果だろう。その尺度は客観的に見るとかなり異色だが、本人はいたってマジメで変なことをしているつもりは微塵もなく、「これこそが正解」と固く信じている。しかも全力投球で猪突猛進。
 
 でもそれこそがラザレフのいいところなんだよなあ。この強引さが日本フィルの演奏能力を飛躍的に高めたのは間違いないのである。
 
 この日、前半の1、2楽章と、後半の3、4楽章とで、印象が異なった。
 前半は、マーラーが仕掛けた罠をヒョイヒョイとまたいで通り越していくみたいな、屈折さを感じさせない演奏。テンポも早い。第一楽章は、少なくとも私が聴いた中では最も早い部類に属する。
 一転して後半の楽章は、るつぼの中にどんどんとのめり込んでいく演奏。
 
 全楽章を通じて、楽譜に潜むマーラー特有の毒を意識的に取り払っていたのは一貫していた。これこそがラザレフ色であり彼の個性的解釈である。やや独善的であったが、結果的に見事な効果が得られていたのだから、文句はなしだ。
 
 第4楽章の最後は息を呑むくらい美しかった。音が霞のごとく、儚く消えていった様は圧巻だった。すべての音が消えた後、まるで静寂さえもコントロールするかのように、タクトの手を高く掲げながらその手をピクピクと震わせていたのがとても印象的だった。タクトを下ろすまでの時間も相当に長い。これもまたいかにもラザレフ。
 
 オーケストラは、管楽器の出来が良かった。ホルン、トロンボーンオーボエなどが素晴らしかった。
 弦楽器、特にヴァイオリンについて、これは日本フィルに限ったことではないのだが、楽譜にかじりついて腕だけ動かしているみたいで、まるでロボットのように見えるのがいつも気になる。
 来月、ベルリン・フィルが来日するが、彼らがどんな風に演奏しているか、オケの皆さんには是非目で見てもらいたいものだ。個々の自発的な体の動きがダイナミックなうねりとなって全体に波及する。ベルリン・フィルが世界最高のオーケストラなのは、単に個々の演奏技術の問題だけではないのである。