メインとなるオペラの合間を縫って行われるベルカント・コンサート。今年はマイケル・スパイレス、セルソ・アルベロ、シー・イジェの3人による3公演。いずれも午後5時開演、休憩なしの1時間半程度のミニコンサートであるため、午後8時からのメイン・オペラとのはしご鑑賞も可能。チケット代も安い。入手困難なオペラと違って、この日は当日券も販売していた。
会場はロッシーニ音楽院内にあるペドロッティ講堂。約700人収容のホールで、近年のフェスティバルではこのベルカント・コンサートくらいしか使われなくなっているが、以前はここでもオペラを上演していたらしい。
この音楽院の中庭に、ロッシーニの銅像が立っている。実は昨年訪れた際、この銅像を是非とも見学したかったのだが、扉が閉まっていたため、かなわなかった。どうやらコンサートに合わせて、来客用に開放されるようなのだ。もっとも普段でも許可を得れば見せてくれるかもしれないが。
いずれにしても、ようやくロッシーニさんにご挨拶が出来ました。
「ボンジョルノ。昨年に続いてまた来ちゃいましたよ、ロッシーニさん。」
一瞬、銅像の顔が笑ってくれたような気がした。いえ別にビールで酔っ払っていたわけではありませんからね。
開演までのしばしの間、ホール入口の外で続々と入場するお客さんを眺めていたところ、そこへ普段着で自転車に乗ってひょいと現れたのは、このフェスティバルに欠かせない名歌手ロベルト・デ・カンディアさん。あまりにも気軽で、誰も気が付かない。一般的にアーティストは他者の公演に無関心であることが多いのだが、出演仲間の公演に駆けつけるとは誠に感心。それにしてもラフだ。
もちろん、日本から来た有名人アナウンサー(司会者)A氏もサングラスをバッチリ決めて来場。陽に焼けてます。毎日バカンスと音楽祭を堪能しているのでしょうねえ。
ジュリオ・ザッパ(ピアノ)
J・トゥリーナ カンシオネス形式による詩曲
C・グアスタヴィーノ 5つの歌曲
ロッシーニ スペインのカンツォネッタ
前半の歌曲プログラムは、曲どころか作曲家の名前さえ知らなくて面食らったが、名前からしてスペイン系。アルベロもスペイン出身なので、お国ものの音楽からスタートということだ。一曲目の出だし、伴奏のピアノの序奏がやたら長く、なかなか歌の出番が始まらなくて焦れた。音楽的には普通。アルベロの調子も普通。以上(笑)。
本領が発揮されたのは、やはり後半のオペラ・アリア。歌曲とオペラ・アリアが決定的に違うのは、‘役’があるということ。役の人物の感情が顕わになるため、音楽も歌唱表現も一段とドラマティックになる。歌手も火が付いたように力が入るし、聞いている方も場面を思い浮かべながらボルテージが上がるわけである。
アルベロの実力は十分に承知していたが、更にパワーアップが図られている様相だ。それに何と言っても輝かしいハイトーンという強力な武器を持っているのが大きい。
今回のROFではギョーム・テルでの漁師ルオディ役で出演だが、これはあまりにもちょい役でもったいない。
ただ、今後もますます成長し、国際的な活躍を見せていくことは間違いなかろう。ミニコンサートではあったが、その確信を得た公演だった。