クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2013/6/9 新国立 コシ・ファン・トゥッテ

2013年6月9日   新国立劇場
指揮  イヴ・アベル
演出  ダミアーノ・ミキエレット
ミア・パーション(フィオルディリージ)、ジェニファー・ホロウェイ(ドラベッラ)、天羽明惠(デスピーナ)、パオロ・ファナーレ(フェランド)、ドミニク・ケーニンガー(グリエルモ)、マウリツィオ・ムラーロ(ドン・アルフォンソ)
 
 
「何かいいオペラはありますか。あったらまた行きましょうよ。」
 
 Tさんはクラシックファンでもオペラファンでもない普通の飲み友達だ。何年か前に「オペラどう?試しに見てみない?」と誘ったのがきっかけで、以来、年に1回程度、初心者向けの適当な演目があると一緒に観に行っている。いつもは「こちらが誘えば乗ってくる」というパターンだったのに、今回は意外にもTさんの方からお声が掛かった。
 
良い傾向ではないか。よしよし、いいぞ。少しずつ媚薬が効いてきたかな?(笑)
 
 ただし依然として自力で行くつもりはないみたいだが。「やっぱり解説付きがいいんだよねー」なんて調子のいいことを抜かしておる。まあこちらとしても悪い気は全然しないけどね。
 
 ということで、当初は行くつもりがなかったが、急遽一緒に行くことにした「コジ・ファン・トゥッテ」。予習してもらったり、作品を細かく解説したりする必要がなく、「果たして二組のカップルはどうなるのか。お楽しみに~。」で済んでしまう楽チンな演目でもある。
 
 Tさんは十分に鑑賞を楽しんだみたいでまずはなによりだが、現代の若者による「キャンプ場でのひと夏の思い出」物語に仕立てられたミキエレットの演出が、オペラの堅苦しさを取り除き、楽しい鑑賞に一役買ったのは間違いないだろう。
 イタリアから彗星のごとく頭角を現したミキエレットは、今、世界でももっともホットな演出家の一人である。彼の演出は、古典作品を鮮やかに現代に蘇らせる劇的な手法と視点が特徴だ。何よりも、ドイツオペラの現代演出にありがちな、抽象的で哲学的な難解さがないのがいい。色彩感覚に溢れているのも素敵だ。
 
 初心者のTさんに対しては、勘違いしないように、「キャンプ場」というのは原作オリジナルではなく、演出家による創作であり読替えだということはいちおう説明しておいた。ついでに、なぜキャンプ場なのか、なぜ読替えなのかということについても。オペラ上演における演出の意義は結構奥深いのである。
 
 それにしても、モーツァルトの音楽のなんと美しく、素晴らしいことよ!これが本当に200年以上前に作曲された音楽なのか? 信じられん。古臭さとは無縁で、新鮮で生き生きとした音楽。現代人の我々の耳にすんなりと入り込み、そしてストレートに心に響く。おそらく500年後も、千年後も依然として輝きを放っているに違いない。天才モーツァルトは偉大なり。天才モーツァルトは永遠なり。
 
 ああそれなのに・・・。ピットから聞こえてくるオーケストラの演奏で、所々でモーツァルトらしからぬ「ぬるさ」を感じてしまったのはいただけない。なんかとってもお仕事的な事務的な演奏。なぜ?
 そりゃ確かにお仕事だろうけどさ、ああいう音楽を演奏していたら、自然にウキウキして沸き立ってくるでしょう?ホント頼みますよ、東フィルさん。
 
 歌手については、個々において特筆するほどの印象は得られなかったが、重唱におけるアンサンブルの均質さと精密さにはとても感心した。ベルカントと違い、モーツァルトのオペラではこういうアンサンブルの質を重視した音楽作りが重要だ。ここらへん指揮者アベルの功績か? だとしたら、グッジョブ!
(本当はもう少し個のアリアで、飛び抜けた歌声を聞かせてほしかった気もするが・・・。ビッグネームを呼べなくなっちゃったもんね、新国立。アベノミクスで景気が回復したら、もう少し活況を帯びたラインナップになるかな??)