2013年5月13日 ウィーン交響楽団 サントリーホール
指揮 大野和士
庄司紗矢香(ヴァイオリン)
モーツァルト 歌劇フィガロの結婚序曲
ブラームス ヴァイオリン協奏曲、交響曲第4番
まずはソロの庄司紗矢香を称賛しようと思う。両足をしっかりと地に据え、オーケストラと堂々と渡り合った見事なブラームスだった。なおかつ、いかにも渋いブラームスではなく、あたかも初夏の香りのような爽やかで清々しいブラームス。いいなあ。さやかたん素敵だなあ。オジサンこういうブラームス好きだなあ(笑)。
・・・ええーと・・冗談じゃなく彼女のヴァイオリンは素晴らしい。若さと技術と勢いに任せた演奏ではなく、じっくりと曲に向き合っていて、音楽が理性に満ちている。以前は自分のソロの音しか耳に入っていない様子が見受けられたが、最近はしっかりと伴奏のオーケストラとの協調が図られている。これで更に指揮者やオーケストラと丁々発止のやりとりをする余裕と貫禄が生まれれば、完璧だろう。
それにしても庄司紗矢香、アメリカ国籍を選択した五嶋みどりを除けば、今現在、日本最高のヴァイオリニストではないだろうか。諏訪内晶子?いやー、さやかたんでしょう!(笑) これからもますます成長し、内田光子のように是非孤高のアーティスト的存在になってほしいと思う。
次に大野和士の指揮によるウィーン響。
日本向けに取ってつけた組み合わせではなく、ちゃんと現地ウィーンで共演デビューを果たしてからやってきたとのこと。指揮者の厳しい生存競争下に身を置き、確固たる地位を築きながら、本場ウィーンにもしっかりと足がかりを掴んだ氏の活躍は誠に目覚ましいものである。
だが、この日のブラームスに関して言えば、ちょっと遠慮がちであると感じた。もちろん見事な造形で素晴らしい演奏だったとは思う。だが、これは大野のブラームスというより、どちらかと言えばウィーン響のブラームスだ。
ひょっとしてウィーンという看板に敬意を表しすぎたのではあるまいか。大野さんらしい味付けもところどころに散見されたが、とてもさりげないものだった。唸りを上げるような強烈なグイグイ感は鳴りを潜めていた。
アンコールのウィンナ・ワルツはあれでいい。だが、ブラームスはもっと思い切って踏み込んでほしかった。
きっと「自発的な演奏を促し、オケに染み付いている伝統のカラーを引き出すことがベスト」という判断だったと思う。
だがなあ・・・。
こんなこと言っちゃワリイけどさ、「ウィーン響だぜ!?」
ウィーン・フィルじゃないのである。
大野さんは、音楽の最終到達地点をオーケストラに明確に示すことができる有能な指揮者だ。堂々と「大野和士のブラームス」で勝負して欲しかった。なかなか客演では難しいかもしれないが、そういう客演でも勝負ができないと、この世界では生きていけないはず。
前回3年前のウィーン響来日公演では、音楽が完全に指揮者のルイージ色になっていた。それでいいと思うし、そうするべきだと思う。(そういえば、前回のプログラムもやっぱりブラームスのVn協が入っていたっけ)
今回の来日プログラムは、これ以外にもベートーヴェンの英雄やシューベルトのグレイト、マラ5など、どれもドイツ物の王道ばかり。はたして他日の結果はどうだったのだろうか。気になるところである。