指揮 ディミートリ・ユロフスキ
演出 ダニエル・スレーター
ダリボール・イェニス(ナブッコ)、イアーノ・タマール(アビッガイッレ)、フランチェスコ・エレーロ・ダルテーニャ(ザッカーリア)、ミハイル・アガフォノフ(イスマエーレ)、マリヤ・ジョコヴィッチ(フェネーナ) 他
フランダース・オペラは、アントワープとゲントのニ都市を本拠にしているカンパニーである。一つの演目を、まずアントワープで数公演こなし、ひき続いて今度はゲントで数公演を行うという持ち回り方式を採用している。
ベルギーの歌劇場では、大野和士がシェフを務めたブリュッセルの王立モネ劇場が有名だが、このフランダース・オペラにしても、あるいはリエージュの王立ワロニー歌劇場にしても、伝統と格式そして実力を備えた立派な劇場である。それが証拠に、このナブッコにもD・イェニスを始めとする国際級の歌手が集っている。
ちなみに鑑賞したこの日は、新演出の初日、いわゆるプレミエであった。
じゃあナブッコはムバラクのような独裁者かといえば、さにあらず。ピカピカのスーツで登場したナブッコはさながら政府系企業の社長で、長期独裁政権の特権的恩恵に浴し、甘い汁を吸いながらのし上がった成金といったいでたちである。民衆の怒りの矛先がそこに向かうのも当然といった感じだ。
一方で、演出家は単に時代や場所を読み替えただけでなく、ナブッコとフェネーナとアビッガイッレの複雑な親子関係を非常に繊細に描写し、演技を振り付けている。それはあたかも恋愛の三角関係のような微妙さ加減だ。
これらの着眼点は非常に興味深く、面白いと思った。だが、「二兎追う者・・・」じゃないが、かえって焦点が定まらない。ポイントをどちらか一点に絞るべきだったのではないか。どうせ「アラブの春」に読み替えたのなら、この際、革命の成果、独裁政治の功罪、真の民主化へのイバラの道といったところにまで踏み込み、迫ればいいと思ったのだが・・・でも、アレだな、そうすると政治色が濃くなり、難しくなるだけか。
旅行初日の夜ということもあって、まだ時差に馴染めず、前半部の終わり頃、睡魔に襲われた。わずかだったと思うが、コックリコックリしてしまった。
休憩時間となり、隣に座っていた20代(たぶん)の女性(ブロンド美人!)が「オペラを楽しんでいますか?」と英語で話しかけてきた。
本当は「ええ、もちろん。なんたってオペラを見るためにわざわざ日本から駆けつけているのですからね!」などと胸を張って答えたかったが、先ほどコックリコックリしたところをきっと見られているに違いないと思い、正直に答えた。
「実は本日朝に日本からやってきたばかりなのです。素晴らしいオペラですが、時差にやられ、少し眠いです。」
「あら、そうなの?」と軽く笑われたが、おかげでこの美しい女性としばし談笑することが出来た。なんと、この御方、歌手を目指して勉強中の研修生(学生?)だそうである。
その彼女のお話を紹介しょう。
「今日はプレミエということで、何人かVIPが来ているわ。俳優さんとかも。もちろんご存知ないでしょうけどね。私、ヴェルディは好き。でも、今日の演出は、ちょっと、ね(笑)。歌手はとてもエクセレント。特にナブッコ役のバリトンは素敵! ところでこの劇場は気に入ってくれたかしら?オペラだけでなく、コンサートも開かれるのよ。私たちにとってとても大切な劇場ね。そうそう、私のボーイフレンドはここの専属歌手なのよ! ううん、コーラス団員じゃなくてソリスト扱い。このナブッコには出演していないけど、来月のワーグナーの『パルジファル』には出演するわ。もちろん主役ではないけど。」
なんだクソー、彼氏がいたのか・・・。
いや、そういうことじゃなくて(笑)。
パルジファル、何の役で出演するんでございましょう?主役ではないということは、さしずめ第一幕に登場する聖杯守護騎士の一人あたりか。本日も、本当は二人で観に来るはずだったのに、急遽彼氏が来られなくなったとのこと。そういえば、確かに彼女の隣の席は空いていた。
ちなみに、来月のパルジファル、指揮はインバル大先生ですぜ!観たいなあ。
とにかく出演する彼氏さん共々、大成功になるといいね!
そして、貴女さんも素晴らしい歌手になれるといいね! 頑張って!