コンサートに行くといつも心が豊かになり、暖かくなる。演奏を聞いて「ああ、生きていて良かったな」と実感し、清々しい気持ちで帰路につくことができる。すべての聴衆を幸せな気分にさせるピアニスト、それがツィメルマンだ。
色々なピアニストがいる。高度なテクニックを誇示し華麗に弾きまくる人、ほとばしるような情熱で一気呵成に押し切る人、高い集中力によって極度の緊張感を漂わせる人・・・。ツィメルマンは、そういう演奏とは一線を画す。
まず、押し付けがましいところが一切ない。それから、肩肘張った力みがまるで感じられない。
「そんなことしなくても、作品に誠実に向き合えば作曲家の意図は十分に掴めるし、メッセージをしっかりと伝えられる。」
一流の芸術家だけに備わる洞察力。そこから生まれる余裕と達観。演奏から聞こえてくるのは作品に対する深い愛情と献身。これぞツィメルマンのピアニズム。だから、私たちは幸せな気分になれるのだ。
楽器に対して強いこだわりがあり、自ら調律も手がけ、ホール音響にも最大限に注意を払うツィメルマン。どのように仕上げたら最適な響きを得られるかを徹底的に追求した結果だろう、オペラシティに響いたピアノの音色の美しいこと!まるで宝石。思わずため息が出た。
プログラムはどれも絶品だったが、特にシマノフスキに惹かれた。
彼はあの日、なんとプライベートで東京に滞在していたのだそうだ。だとしたら、衝撃は計り知れないものだったろう。