クラシック、オペラの粋を極める!

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2012/12/11 ツィメルマン・リサイタル

2012年12月11日  クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル   東京オペラシティホール
ドビュッシー  版画、前奏曲集第1集より
 
 
 コンサートに行くといつも心が豊かになり、暖かくなる。演奏を聞いて「ああ、生きていて良かったな」と実感し、清々しい気持ちで帰路につくことができる。すべての聴衆を幸せな気分にさせるピアニスト、それがツィメルマンだ。
 
 色々なピアニストがいる。高度なテクニックを誇示し華麗に弾きまくる人、ほとばしるような情熱で一気呵成に押し切る人、高い集中力によって極度の緊張感を漂わせる人・・・。ツィメルマンは、そういう演奏とは一線を画す。
 まず、押し付けがましいところが一切ない。それから、肩肘張った力みがまるで感じられない。
「そんなことしなくても、作品に誠実に向き合えば作曲家の意図は十分に掴めるし、メッセージをしっかりと伝えられる。」
 一流の芸術家だけに備わる洞察力。そこから生まれる余裕と達観。演奏から聞こえてくるのは作品に対する深い愛情と献身。これぞツィメルマンのピアニズム。だから、私たちは幸せな気分になれるのだ。
 
 楽器に対して強いこだわりがあり、自ら調律も手がけ、ホール音響にも最大限に注意を払うツィメルマン。どのように仕上げたら最適な響きを得られるかを徹底的に追求した結果だろう、オペラシティに響いたピアノの音色の美しいこと!まるで宝石。思わずため息が出た。
 
 プログラムはどれも絶品だったが、特にシマノフスキに惹かれた。
 この曲の演奏前にツィメルマンのメッセージが場内アナウンスされ、「この曲の演奏を東日本大震災の被災者に捧げる」とのことだった。この予備知識のせいかもしれないが、真心がこもった祈りの演奏だったと思う。
 
 彼はあの日、なんとプライベートで東京に滞在していたのだそうだ。だとしたら、衝撃は計り知れないものだったろう。
 日本人にとってあまりにも辛くて大きな傷跡だが、外国人であるツィメルマンには、願わくば、決して忘れられないあの経験から何かを掴み、今後の演奏に活かしてほしいと思う。我々が向き合う試練、苦難を克服して立ち上がろうとする姿が、彼の人生観、演奏観にプラスの影響を与えられたら、と思う。ツィメルマンには、更に一段と偉大な芸術家になってもらいたい。