指揮 マリス・ヤンソンス
合唱 バイエルン放送合唱団
第三日 交響曲第6番田園、第7番
第四日 交響曲第8番、第9番合唱付
チクルスの前半を聞き、「模範的すぎ、整然としすぎ、もっと大胆な解釈を」などといった感想を書いてしまったのだが、とんでもない、後半の二日間は見違えるほどの驚嘆の演奏が繰り広げられた。すべてのフレーズが思慮に富み、斬新で創意工夫に満ち、堂々としてなおかつ颯爽としたベートーヴェンだった。そこには、徹頭徹尾、ヤンソンスの美学が貫かれていた。彼の執念が感じられた。あまりにも鮮烈であり、あまりにも切れ味がよく、そしてドラマチックだった。
「ようやくヤンソンスが本領を発揮したな。最初からこれくらいやってくれればいいのに。」などと高いところからモノ申すつもりはない。むしろその逆で、私は自分の耳の方を疑った。
真面目で、作品に対して献身的なヤンソンスのことだ。「最初は軽く流して、後半に向けて加速していけばいい」なんていう不肖な魂胆があろうはずがない。チクルスの初日から、ヤンソンスの鋭い洞察とみなぎる情熱が全力で注ぎ込まれていたことは間違いがなかろう。要するに、それを単に私が感じ取ることが出来なかっただけではないか!?「殻を破って欲しかった」なんて書いた自分が恥ずかしい・・・。
第6番田園における天国の響きには、思わず目頭が熱くなった。この曲で、こんなにも美しく、描写性に富んだ演奏を私は知らない。「ベートーヴェンが聴いたら、さぞや感涙しただろう。」そう思った。
第7番については、7年前にも同じバイエルン放送響との来日で演奏されたが、絶品の名演だったことを覚えている。今回、改めてその絶品の名演が再現されたのは祝着至極。
そして、大トリを飾ったのが第9。いやあ、凄かったなあ。信じられません。私はただ首を横に振るばかり。
何回聴いたか分からないほど聴き尽くした第9、もはや新たな響き、新たな視点、新たな解釈なんて見つけられないと思ったのに、目からウロコの工夫が見られたのは驚きだった。
カーテンコールは大いに盛り上がった。そりゃそうだろう。世界最高、究極の第9を聞けたのだから。