フランスの指揮者、ジャン・フルネ氏がお亡くなりになられた。ご冥福を祈りたい。
フルネは東京都交響楽団と深い結びつきがあったので、私も都響との共演に何度か足を運んだ。
私は自分が行った公演のほぼ100%をデータベース化してあるので、調べればフルネについても、いつ、何のプログラムだったか、ということは即座に分かるのだが、何を隠そう、肝心な公演の記憶、印象があまり鮮明でないものが多い。
今でもはっきり良かったと思い出せるのは、1989年12月に行われた都響とのベルリオーズ・劇的交響曲ロメオとジュリエットだ。この公演は都響の定期公演300回記念と銘打ってある。特別な公演だったゆえに憶えているのか・・。
要するに、派手なパフォーマンスを行わない、堅実な職人指揮者だったのだろう。
その昔、都響に在籍していた奏者に直接聞いたことがあるのだが、練習は厳しかったそうだ。細かい音符一つ一つを丁寧に作っていたらしい。タイプ的に、ドホナーニみたいな指揮者ではないかと思う。
そんなフルネも、高齢になるに従って、やがて信者ができ、崇め奉られるようになってきた。地味な存在だったのに、上にそびえている人たちが一人抜け、二人抜けて、いつの間にか周りから巨匠にされてしまった。
なんだか、ただ高齢というだけで、巨匠と崇めるのはいかがなものか、という気もする。
だが、その一方で、そういう高齢指揮者が登壇すると、聴衆の集中力が俄然高くなって、演奏に熱が注がれ、燃焼度の高い公演になることが多いのも事実だ。
晩年のフルネの公演(2004年に来日した都響の公演を聴いた)も、フルネの音楽自体は昔とそう変わっていないのに、コンサートホール自体が熱を帯びて何とも言えない雰囲気を醸し出していた。
まあ、何にせよ、日本の聴衆からは愛されていたことは間違いない。自分の引退公演を日本で行ったという彼自身も日本との結びつきを特別と思ってくれたのだろう。
90歳を過ぎても音楽に奉仕し、音楽に人生を捧げ、天寿を全うした。なんて幸せな人であろうか!