2012年7月6日 新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだトリフォニーホール
指揮 ダニエル・ハーディング
シューベルト未完成の、なんとコクがある音楽! 奥ゆかしさに満ち、しなやかにして優雅な佇まい。どこか懐かしい。それはまさに「和」の様式美だった。あたかもハーディングは和服を着て指揮しているかのようだった。
英雄の生涯は、さすがにもう少しテンションが上がっていたが、それでも必要以上に踏ん張っている様子が見えない。豊麗で機能性を備えた曲であるにもかかわらず、実に端的である。私はこの曲を多くの一流オーケストラによって、それこそゴージャスな演奏を何度も聴いているが、これほどまでにパワーに頼らず、構成力と冷静さで勝負した演奏は初めてと言っていい。
これは、オーケストラと指揮者のコラボレーションが最大限に良い方向に発揮された成功例である。ハーディングと新日フィルの両者、今本当に相性がばっちりで蜜月の関係にあることがはっきりと分かったコンサートだった。まさに「ツーカーの仲」である。
原因は、もう、はっきりしている。
オーケストラが、この指揮者について行きたいのだ。間違いない。
アルミンク音楽監督の退任が来年に迫った状況下、新日フィルはこの指揮者にオーケストラの‘これから’を委ねたいのだ。だから、ハーディングの要求に全力で応え、ハーディングが心ゆくまで音楽に没入できる雰囲気を醸し出しているのだ。
もちろんファンだって、ハーディングとのますますのつながりを強く望んでいる。世界を駆け回っている売れっ子指揮者のハーディングだが、新日フィルのためというより、日本の音楽界のためにも、ここはみんなで両者の良い関係を暖かく見守り、声援を送り続けようではないか。