クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

バルトークのオケ・コン

 管弦楽のための協奏曲。5楽章から成る交響曲風の管弦楽曲でありながら、なぜかタイトルは協奏曲。特定の楽器のためではなく、オーケストラの各楽器群を独奏と見立てたコンチェルト。さすがバルトーク、独創的で、つくづくナイスなアイデアだと思う。そして、‘絶妙なネーミング’だと思う。
 
 私がこの曲に出会ったのは高校生の頃(つまりクラシックを積極的にかじり始めた初期の頃)だったが、単にタイトル名に惹かれてレコードを買ったようなものだった。(本当に最初の頃は、曲のタイトルとかレコードジャケットのかっこ良さとかで選んでいた。単純でした。ちなみに、この時購入したのはオーマンディ指揮フィラデルフィア管のものだったと記憶する。)
 
 初心者だった私がこの曲のタイトルに目が留ってレコード盤を取り上げ、そして勝手に想像したのは、「オーケストラが、あたかも協奏曲のカデンツァを奏でるかのような超絶技巧の曲」というイメージ。
「いったいどんなスゴい曲なのか?」思わず聴いてみたくなる題名。そういう意味で、‘絶妙なネーミング’というわけだ。
 
 で、実際に聴いてみると・・・「なんだよ、普通の曲じゃん?」(笑)
 別に「てめー、騙したなー」とまでは思わなかったが。
 
 だが、聞き込んでいくうちに、「なるほど、‘管弦楽のための協奏曲’とは良く言ったものだ」と徐々に感心。曲の素晴らしさを理解するのに、さしたる時間はかからなかった。特に私は、中学、高校とブラスバンドでラッパを吹いていたので、第1楽章、第5楽章の金管セクションの華やかな旋律と響きに魅せられていた。
 
 やがて高校を卒業し、大学へ進学。管弦楽部に入部した私は、己のトランペット奏者としての限界を悟り、19歳という遅咲きでヴァイオリンに転向。初心者として「どーーーーれーーーーみーーー・・・」からやり直す悪戦苦闘の日々を送っていた。
 その一方で、トランペットへの未練は完全に捨てきれず、「やっぱり元に戻ってトランペットを続けるべきか」などと迷い、気持ちが吹っ切れずにいた。
 
 そんなある日のこと。
 練習室で上級生の先輩トランペッターが、この‘オケ・コン’のトランペットパートを練習していた。‘ジュネス’と呼ばれる関東近県の大学生から優秀な奏者が選抜されたエリート・オーケストラがあり、コンサートでオケ・コンをやることになっていて、先輩はこのオーディションに向けて黙々と練習をしていたのであった。
 
 先輩は第5楽章の、例のカッコいいトランペットの旋律を吹いていた。思わずラッパ奏者としての血が騒いだ私は、先輩のもとに駆け寄り、「是非私にも吹かせてください!」と頼み込んだ。先輩は快く「よし、じゃ、やってごらん。」と楽譜を渡してくれた。おお!なんという幸せ!これがオケ・コンの楽譜か!よっしゃ、どれどれ。
 
 ところが、である。
 まあ、要するになんだ、つまり「難しかった」のである。録音で聴いたら簡単そうだったが、それはプロの演奏だからそう聞こえるわけで、実際に自分が吹いてみたら、もうチャンチャラおかしいくらい、音が出なかったのであった。
 
 嗚呼、ヘタクソなオレ。
 先輩が優しく私の肩を叩く。
「やっぱり、キミはヴァイオリンで頑張れば?(笑)」
 
・・・・。
 
「仕方がない。なんたってこの曲は‘協奏曲’だもんなあ。うーむ。」
などと無理やり自分を納得させたが、先輩との実力差を如実に見せつけられ、愕然とうなだれたのであった。
 
こうして踏ん切りが付いた私は、ヴァイオリンの道を邁進することに。
 
何を隠そう、オケ・コンは、私にラッパ奏者失格の印籠を突きつけた、とってもほろ苦い青春の曲なのであった。