クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2012/5/4 ばらの騎士

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2012年5月4日  フィレンツェ5月音楽祭    テアトロ・コムナーレ
指揮  ズービン・メータ
演出  アイケ・グラムス
アンゲラ・デノケ(マルシャリン)、ケイトリン・ハルカップ(オクタヴィアン)、シルヴィア・シュヴァルツ(ゾフィー)、クリスティン・シグムントソン(オックス)、アイケ・ヴィルム・シュルテ(ファニナール)、イングリッド・カイザーフェルト(マリアンネ)、セルソ・アルベロ(歌手)   他
 
 
 この公演を目指して、私ははるばる日本からやってきた。ドイツ、スイスを経由し、時差を慣らしていきながらついにフィレンツェに辿り着いた。
 
 もともとG・Wの当初計画は、実はニューヨーク&ボストンだった。この公演を見つけ、すべてを白紙に戻し、行き先をヨーロッパに変更した。もちろん、お目当てがご贔屓デノケの元帥夫人であったことは言うまでもない。
 
 75年の歴史を誇るフィレンツェ5月音楽祭。この日は音楽祭の初日、開幕を飾る公演であった。イタリア国営放送RAIではラジオ(FM?)のライブ中継を入れるという気合の入れよう。
 会場であるコムナーレ劇場に行ってみると、なんと、レッドカーペットが敷かれていた。騎馬警官もいる。華やかにドレスアップしている紳士淑女も多く、有名人が会場入りするとマスコミがすかさず取り囲み、フラッシュが眩く焚かれる。ゴージャス! すごいじゃん! さすが伝統ある音楽祭の開幕公演。
 そんじゃ、ワタクシめもセレブ達に混ざって御入場。どいたどいた、ちょっくら通してくれぃ。はいはい、サインは後で。写真はそれくらいで勘弁し・・・・ありゃ?? 完全無視??
 
 そんな開幕の高揚感は客席に入ると萎んだ。空席があっちにもこっちにも。なんじゃこりゃ?水差すなあ。やっぱりイタリアではR・シュトラウスで会場を満員にすることは出来ないのか。世界的な指揮者メータをもってしてもダメなのか。
 密かにやらないかと期待していた上演前のイタリア国歌斉唱(スカラ座のシーズン開幕日はやる)も残念ながらなし。これじゃ結局通常のオペラ鑑賞と変わらないな。ちょっと拍子抜け~。
 
 まあいい。上演が素晴らしければそれでいい。演奏が秀逸ならそれでいい。とにかく舞台に集中するとしましょうか。
 
 
 この日の公演で一番光っていたのは、そりゃもちろんデノケ様と言いたいところだが、実はメータ。近年のメータはいい感じで円熟している。かつてのような「オレがオレが」の強引さが影を潜め、すっかり肩の力が抜けている。K・Y=「空気が読めない」ではなく、「空気が読める」指揮者になってきた。その効果は音楽面に絶妙な影響を及ぼしていて、音が自由に解き放たれ、自発的に語るようになっている。そうなんだよメータくん。素材(作品)の潜在力に任せればいいんだよ。ようやく気が付きましたね(笑)。
 
 デノケ様の素晴らしさは言わずもがな。あたしゃ彼女が歌う一音一音を逃すまいと全力で集中して聴いていた。特に第1幕「マルシャリンのモノローグ」シーン、彼女の万感こもった心に訴えかける歌は、もう涙なしでは聞くことが出来ないくらいだった。
 ただし、決してケチを付けるわけではないが、元帥夫人のような気品のある役もいいけど、デノケの持ち味が最大限に発揮されるのは、サロメ、クンドリー、エミリア・マルティ(マクロプロス事件)、マリエッタ(死の都)、カテリーナ(ムツェンスク郡のマクベス夫人)といった‘ヤバい女’、‘魔性の女’の諸役だと思う。私がまだ観ていないクンドリー、さぞかし素晴らしいんだろうなあ。いつか観に行かなくては!
 
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 このオペラのもう一人の主役オクタヴィアンのハルカップは、初めて聴いたが、純粋で実直でまじめな歌いっぷりが非常に好印象。容姿も凛として美しい。ゾフィー役のシュヴァルツは結婚に憧れる10代のお嬢さんというより、結婚相手に「これだけは譲れない」みたいな確固たる意思を持つ20~30代の女性のように演じていて、芯の強さが感じられた。ファニナールのシュルテはベテランらしく貫禄の存在感。これに美声のテノール・アルベロや、いかにも怪しい雰囲気で場を盛り上げたヴァルザッキとアンニーナのコンビも加わり、全幕を通じて見事な舞台が展開された。
 
 これだけ歌も演技もレベルが高ければ、超が付く名演となってもおかしくなかったのに、残念ながらそうならなかったのは、たった一人だけ足を引っ張った歌手がいて上演の質を下げてしまったから。
 そう、そのとおり。オックス男爵のシグムントソン、オマエだよオマエ。響きが薄く、音量も著しく不足しているので、声が全然客席に届かない。音程も不安定、演技も表情に乏しくイマイチ。
 この役はこれまで何度も歌っているはず。(一昨年NYで聴いたオックスも彼だった。)経験値はあるはずなのに・・・。
 
 
 舞台装置は鏡を利用していて、反射によって奥行きや幅が更に広がり、美しさを増長させていた。だが、この舞台、以前バーデン・バーデンで観たヴェルニケ演出の舞台とそっくり(やはり同様に鏡を使用している)。アイデアのパクリじゃないか?と思えるくらい。
 全体的なスタイルとしてはオーソドックスだったが、上記の歌手のコメントに書いたとおり個々の演技ではそれなりの主張が出ていたので、まあ及第としましょう。
 
 
 この公演で、鑑賞予定のオペラは全日程を終了。終演後、本当なら感動に浸りつつゆっくり食事でもしたかったが、翌日がめちゃくちゃ早起きしなければならなかったので、早々にホテルに戻った。予め買っておいた軽食をホテルの自室でパクつきながら出発のための荷作りをしていると、せっかくの余韻がどんどんと薄れていった。くそー、なんてこったい。