クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

タンホイザー2

 最近、ブログ更新の日の間隔が空いてきている。3月末から4月にかけてはちょうど年度の切り替わり時期で、仕事も忙しく、そのくせ歓送迎会などの宴会も多いことから、コンサートやオペラに行くことをかなり控えてしまっている。更には、現在、個人的な家庭の事情によりバタバタしていることがあって、正直なところ、コンサートどころではないのである。
 何を隠そう、昨日の東響の定期公演も、チケットを買っていたにもかかわらず行くことが叶わなかった。メインが珍しいスクリャービン交響曲(第2番)だったので、行きたかったのだが・・・。残念無念。
 
 今週末のインバル&都響のコンサートにはなんとか頑張って行きたいと思っている。タコ10だしな。
 
 ということで、あまり書くネタもないのだが、せっかくタンホイザー関連記事が続いたので、今日もそれについて書こうと思う。忘れられない「思い出のタンホイザー」だ。
 もっとも、「忘れられない」といっても、良い意味ではなく、「とっとと忘れたいのに、頭にこびりついてしまって離れない悪夢の公演」の方である。目がクラクラし頭が痛くなるようなぶっ飛んだ舞台。理解不能、意味不明、魑魅魍魎・・・。
 
 
2004年6月30日  ベルギー王立歌劇場(ブリュッセル
指揮  大野和士
ルイス・ジェンティーレ(タンホイザー)、ロマン・トレケル(ヴォルフラム)、ステファン・ミリング(ヘルマン)、カタリーナ・ダライマン(エリザベート)、ナターシャ・プチンスキー(ヴェーヌス)   他
 
 
 とにかく過激で、スキャンダラスで、グロテスクで、目を覆いたくなるような舞台であった。過激な舞台はこれまでに何度も観ているが、そんな中でも私の中では間違いなく指折りである。
 
 演出家ヤン・ファーブルは、あの、昆虫研究家ファーブルの孫だか曽孫だかだそうで、ベルギーの前衛芸術家。昆虫→生き物→生命という関連性があったかどうかは知らないが、「生命の神秘」にスポットを当てた舞台を創作した。
 ・・・なんて言うと聞こえがいいが、そのアプローチが尋常ではない。「そこまでやるか??」という仰天の演出だった。
 
 第一幕冒頭のヴェーヌスベルグの場面は、素っ裸の女性バレエダンサーの踊り。もっとも、それだけなら、珍しくもなんともない。美しい肢体をくねらすダンサーに混じって、明らかに異質な体型をした女性が踊っている。ボコンと張り出たお腹。体内に生命を宿した妊婦である。それも一人ではない。7、8人の妊婦が素っ裸で登場。それだけでも「うわーっっ、これはキツイなあ・・・」と思ったのに、更にダブルパンチを食らわせられたのは、ステージにスクリーンを設置し、医師(?)が妊婦のお腹に超音波検査機を当て、うごめく胎児の様子を映し出したのである!
 
 (いったいどんなシーンなのか、見たい衝動に駆られた方は、グーグルで、「jan fabre  tannhauser」と画像検索すれば出てくるので、是非見つけてみてください。)
 
 これは本当に衝撃的なシーンだった。妊娠すること、身篭ること、それ自体は素晴らしい出来事であろう。だが、妊婦を素っ裸にした上で、まだ完全に人間の形になっていない胎児の姿を多数の観衆が集まった劇場で大々的に見世物にすることに何の意味があるのであろうか。
 
 それだけではない。
 このオペラで重要な役割を担う巡礼の群衆について、一人一人にピエロのメイクを施したかと思ったら、突然、鬼のような怪人のような悪魔が現れて、それらの人々を次々と刀でぶった切っていき、真っ赤な血を噴き出させていた。ここまで来ると、もう悪趣味としか言いようがない。
 
 で、第3幕の最後、タンホイザーがヴェーヌスベルグへ戻りたいと訴えると、再び妊婦と胎児が登場・・・。もう、「やめれー!、勘弁してー。」
 
 
 数年後。
 指揮者大野和士さんの講演会を聴く機会があった。確か、昭和音楽大学のオペラ研究所によるオープンカレッジだったと記憶する。
 
 これまで様々な劇場で、数多くのオペラを振ってきた大野さん。その大野さんがこの時、「色々なオペラの製作に関わってきたが、あれほど驚いたことはない」と披露してくれたエピソード話が、このタンホイザーだった。
 オペラでは指揮者は舞台の真正面に対峙するため、「とにかくこのシーンでは目のやり場に困って参った。」と、やれやれといった表情で話していた。
 
 なるほどねえ。百戦錬磨の大野さんでさえも、現場の人間としてあの舞台に関わったのは大変だったのか。
 講演を聞いていた人は、「ふーん、いったいどういう舞台だったのだろう??」と思いを巡らせたことと思うが、実際にそれを目撃した私は、何度も「うんうんうんうんうん」と頷いてしまった。思わず「はーい!私、それ見ましたで~す!!」と手を挙げて大きな声で発言したい衝動に駆られた。もちろんしませんでしたけどね(笑)。
 
 ちなみに、以後、この演出家の名前を、欧州の劇場の公演ラインナップで見つけたことは一度もない。もう結構です。