クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

思い出の「ナブッコ」

 ナブッコは、私がオペラを聴くようになって、最も初期の頃に舞台鑑賞した演目である。それまで交響曲管弦楽曲などのいわゆるコンサート系ばかりを聴いていた私が、社会人一年生くらいから徐々にオペラを聴くようになり、ついに意を決して観たのがナブッコだった。
 椿姫でもなくアイーダでもなく、なぜナブッコだったかというと、「その時、黒船とともにナブッコがやって来たから」である。
 
 1988年9月。イタリアから黒船がやってきた。ミラノ・スカラ座引越し公演。これがムーティスカラ座とのコンビニよる初来日だった。
 
 この時の来日演目は次のとおり。
 
1 ヴェルディ  ナブッコ(指揮R・ムーティ、演出R・デ・シモーネ)
2 ベッリーニ  カプレーティ家とモンテッキ家(指揮R・ムーティ、演出P・L・ピッツィ)
3 プッチーニ  トゥーランドット(指揮L・マゼール、演出F・ゼッフィレッリ)
4 プッチーニ  ラ・ボエーム(指揮C・クライバー、演出F・ゼッフィレッリ)
 
さてさて。あなたなら、どれに行きます??
やっぱり4??・・・だろうねえ。クライバーだもんねえ・・。
 
もし、これが今現在の私だったら・・・「全部行く!」 とーぜんでしょ。
だが、いかんせんこの時私はオペラ初心者だった。更には悲しい事に、社会人二年生の薄給サラリーマンだった・・・(泣)。
 
 ムーティ音楽監督に就任して初めてのスカラ座来日公演で、そのムーティが振る演目を外すなどといったことは、「あり得ない、考えられない」。
 当時から、私はムーティが来日した際には最低でも一公演は必ず足を運ぶ筋金入りのファンだったのだ。高校生の時、フィラデルフィア管弦楽団オーマンディムーティの二人の指揮者を擁して来日したが、その時だって私はムーティの公演に行っているのである。どうだ、参ったか。(実は内心は『しもうた、失敗した、誤った』と思っているが、そんなことは絶対に口外するものか、ふんっ。)
 
 
 壮絶なチケット獲得電話作戦の結果、私はなんとかナブッコの安い席を手に入れた。確か、D席2万円だったと記憶する。(ちなみにS席は3万5千円、A席は3万2千円。もう24年前のことだ。)
 この時、もしボエームについても安い席が残っていたら一緒に買おうと思っていたが、やはり甘くはなかった。なんたってクライバー。「安けりゃ、ついでに買ったろ」なんていう不遜な輩が手に入れられるわけがないっつうの。ねえ。
 
 
1988年9月4日 ミラノ・スカラ座   NHKホール
演出  ロベルト・デ・シモーネ
レナート・ブルゾン(ナブッコ)、ゲーナ・デミトローヴァ(アビガイッレ)、ブルーノ・ベッカリア(イズマエーレ)、パータ・ブリュチュラーゼ(ザッカーリア)、ルチアーナ・ディンティーノ(フェネーナ)  他
 
 
 初心者の為せる業、今では絶対に有り得ないが、この時私はナブッコの音楽を全く知らないまま、ぶっつけ本番で会場にノコノコと出かけていった。さすがにストーリーは事前に予習したが、当時のスカラ座の引越し公演ではまだ字幕スーパーもついておらず、物語を追い求めるのはほとんど困難だった。
 にもかかわらず、震えるくらいに感動したことを、今でも鮮明に覚えている。
 
 会場は悪名名高いNHKホールであったが、音響の悪さなど全く気にならなかった。ヴェルディ特有の湧き立つようなリズムとメロディが初心者の琴線に触れた。デミトローヴァの巨大な声に驚嘆し、スカラ座合唱団の美しいカンタービレに酔った。そして何よりも、目にも留まらぬ猛烈な速さと勢いでタクトを振りまくっていた若きムーティの推進力に完全にノックアウトだった。まるでジェットコースターに乗せられたようなスピードとスリル感に、三半規管がマヒに陥ったかのような感じだった。
 
「オペラってすごい!!」
禁断の扉がガーッと音を立てて開いた瞬間だった。そりゃそうだよなー。スカラ座だもんなー。初っ端からこんなとびきり上等の公演を見ちゃったら、オペラにハマっちゃうのも当然だよね。
 
あの時、もしナブッコではなく、クライバーのボエームを観ていたら、どうだっただろうか。
やっぱり禁断の扉が開いたのだろうか・・・。
まあ、遅かれ早かれその時はやってくるのであるが。
 
 
 「何であの時クライバーのボエームに行かなかったの?」とよく聞かれるが、私は今でもナブッコにして良かったと確信している。(いや、両方行ければよかったよ、そりゃ。)
 そして、何よりも、「オーマンディよりも、クライバーよりも、ムーティを選択した男」として、私は世界中にいるムーティファンから永遠に崇められることであろう。はっはっは。
エストロ自身にもこの話を直接伝えてやりたいものだ。ニターッと笑って褒めてくれるかな??(笑)