ナブッコは、私がオペラを聴くようになって、最も初期の頃に舞台鑑賞した演目である。それまで交響曲や管弦楽曲などのいわゆるコンサート系ばかりを聴いていた私が、社会人一年生くらいから徐々にオペラを聴くようになり、ついに意を決して観たのがナブッコだった。
この時の来日演目は次のとおり。
さてさて。あなたなら、どれに行きます??
やっぱり4??・・・だろうねえ。クライバーだもんねえ・・。
もし、これが今現在の私だったら・・・「全部行く!」 とーぜんでしょ。
だが、いかんせんこの時私はオペラ初心者だった。更には悲しい事に、社会人二年生の薄給サラリーマンだった・・・(泣)。
当時から、私はムーティが来日した際には最低でも一公演は必ず足を運ぶ筋金入りのファンだったのだ。高校生の時、フィラデルフィア管弦楽団がオーマンディとムーティの二人の指揮者を擁して来日したが、その時だって私はムーティの公演に行っているのである。どうだ、参ったか。(実は内心は『しもうた、失敗した、誤った』と思っているが、そんなことは絶対に口外するものか、ふんっ。)
壮絶なチケット獲得電話作戦の結果、私はなんとかナブッコの安い席を手に入れた。確か、D席2万円だったと記憶する。(ちなみにS席は3万5千円、A席は3万2千円。もう24年前のことだ。)
この時、もしボエームについても安い席が残っていたら一緒に買おうと思っていたが、やはり甘くはなかった。なんたってクライバー。「安けりゃ、ついでに買ったろ」なんていう不遜な輩が手に入れられるわけがないっつうの。ねえ。
1988年9月4日 ミラノ・スカラ座 NHKホール
指揮 リッカルド・ムーティ
演出 ロベルト・デ・シモーネ
初心者の為せる業、今では絶対に有り得ないが、この時私はナブッコの音楽を全く知らないまま、ぶっつけ本番で会場にノコノコと出かけていった。さすがにストーリーは事前に予習したが、当時のスカラ座の引越し公演ではまだ字幕スーパーもついておらず、物語を追い求めるのはほとんど困難だった。
にもかかわらず、震えるくらいに感動したことを、今でも鮮明に覚えている。
会場は悪名名高いNHKホールであったが、音響の悪さなど全く気にならなかった。ヴェルディ特有の湧き立つようなリズムとメロディが初心者の琴線に触れた。デミトローヴァの巨大な声に驚嘆し、スカラ座合唱団の美しいカンタービレに酔った。そして何よりも、目にも留まらぬ猛烈な速さと勢いでタクトを振りまくっていた若きムーティの推進力に完全にノックアウトだった。まるでジェットコースターに乗せられたようなスピードとスリル感に、三半規管がマヒに陥ったかのような感じだった。
「オペラってすごい!!」
禁断の扉がガーッと音を立てて開いた瞬間だった。そりゃそうだよなー。スカラ座だもんなー。初っ端からこんなとびきり上等の公演を見ちゃったら、オペラにハマっちゃうのも当然だよね。
やっぱり禁断の扉が開いたのだろうか・・・。
まあ、遅かれ早かれその時はやってくるのであるが。
マエストロ自身にもこの話を直接伝えてやりたいものだ。ニターッと笑って褒めてくれるかな??(笑)