2008年11月4日 ウィーン国立歌劇場 東京文化会館
ドニゼッティ ロベルト・デヴェリュー(コンサート形式上演)
指揮 フリードリッヒ・ハイダー
エディタ・グルベローヴァ(エリザベッタ)、ロベルト・フロンターリ(ノッティンガム公爵)、ナディア・クラステヴァ(サラ)、ホセ・ブロス(ロベルト・デヴェリュー)他
順序からして、11月3日の新日本フィル定期公演、及び同日夜に観たメトロポリタンオペラライブビューイングについてまず書こうと思っていた。
しかし、その翌日に聴いたウィーン国立のロベルト・デヴェリューを体験してしまっては、もう前々日のことについて書くことなど出来ない。完全にすっ飛んでしまった。一夜経っても興奮が冷めやらない。
とにかく、もう、なんて言っていいのか・・・。
20年くらい前、アメリカでは一人のバスケットボールプレーヤーが伝説を築いていた。マイケル・ジョーダン。人は彼を‘神’と呼んだ。「彼はマイケル・ジョーダンではない。マイケル・ジョーダンの姿をした神だ」と。
だったらクラシックファンも言わせてもらおうではないか。
「エディタ・グルベローヴァ。彼女もグルベローヴァの姿をした神だ!」
私はもし人から「あなたは神を見たことがあるか?」と聞かれたら、こう答えよう。
「はい、あります。東京文化会館で見ました。」
(もっとも、「あなたは神を見たことがあるか」なんて質問自体、されることなんて絶対ないか(笑)。)
今回の公演を聴いていない人は、なんてオーバーな感想と思うだろう。だが、今回の公演を聴いた人はきっと頷いてくれるだろう。ただ「歌ってます、演技してます」だけであれだけの芸術的表現ができるとは思えない。人間の領域を超えている。やっぱり神の祝福を得ているとしか思えないのだ。
当初、舞台上演でなくコンサート形式上演であることに落胆した。だが、グルベローヴァはインタビューで「その分、音楽に集中できるはず」と話した。装置や演出がないだけで、実際にはそれぞれの歌手が役に入って演技をしていた。十分にオペラの世界に浸ることが出来た。100%音楽に集中しながら。
「ロベルト・デヴェリュー」という作品の素晴らしさ、偉大さにも改めて気が付いた。グルベローヴァは、自身の歌手生命を賭けて、埋もれたベルカントオペラの作品採掘に取り組んでいる。彼女がいなかったら、このオペラを知ることが出来なかったかもしれない。
グルベローヴァ。彼女の名は伝説となって永遠に語り継がれよう。我々は歴史の証人となったのだ。