メータが帰ってきた!
明日、東京文化会館でチャリティコンサートとして、ベートーヴェンの第9を振る。多くの外国人が日本への渡航を見合わせており、クラシック音楽の公演でも中止が相次ぐ中、「被災者のために」とボランティアで駆けつけてくれたという。彼の英断と崇高な行動に心から敬意を表します。メータさん、ありがとう。あなたは‘帰ってきたウルトラマン’。我らがヒーローだ!
・・と讃えていてなんだが、何を隠そうこれまで私はメータが振る音楽をそれほど高く評価していなかった。好きか嫌いかの択一で言えば「嫌い」。私には、メータの指揮は、音楽をやや強引に引っ張ろうとしているように見える。また、あたかもボクシングのように音楽と格闘しているかのようにも見える。味付けは濃厚。ソースはたっぷり振りかかっているが、芯まで味が染み込んでいないというか・・・。
これまで何度も来日しており、私も何度も聴いているけど、決定的なホームランの演奏に遭遇したことがあまりない。
明日のプログラムである第9も、2001年のバイエルン州立歌劇場引っ越し公演の際に同歌劇場管弦楽団、合唱団との特別演奏会で聴いたが、「可もなく不可もなく」って感じだった。(この時のアルトのソリストが、明日も出演の藤村実穂子さんだった。)
ただし、近年は円熟とともに強引さが影を潜め、まるくなっていい味が出てきたようにも思える。
2009年にウィーン・フィルと来日した時の「英雄の生涯」は、あたかもオーケストラからの風の流れを読み、無理やり舵を切るのではなく、その風を上手に帆で受けながら推進するボートの舵手のように、いい感じでシュトラウスの芳醇な音楽を導き出していた。また、先日のフィレンツェ歌劇場のトスカでも、ドラマに寄り添うかのごとく、音楽がピタっとはまって、オペラの醍醐味を再発見させてくれた。
だから、明日も期待しようと思う。期待できると信じる。なぜなら、そこに集う全ての人、観客も演奏家たちも、思いは一つだから。亡くなった方への祈り、復興への祈り。音楽には、そうした祈りを人々の心に届ける力がある。
日本のクラシック音楽における復興が、「メータの第9」から始まったと語り継がれるような、そんな奇跡の名演を私は期待する。メータはそのために日本にやってきた救世主だ。