クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

DVD エレクトラ

イメージ 1
 
 
2010年1月、2月 バーデン・バーデン祝祭劇場ライブ収録
演出  ヘルベルト・ヴェルニケ
リンダ・ワトソン(エレクトラ)、ジェーン・ヘンシェル(クリテムネストラ)、マヌエラ・ウール(クリソテミス)、アルベルト・ドーメン(オレスト)、ルネ・コロ(エギスト)  他
 
 
 今書いている途中の2008年旅行記がちょうどバーデン・バーデンに差し掛かったところだが、つい先日、ここの祝祭劇場でライブ収録された「エレクトラ」DVDを購入し鑑賞したので、いいタイミングというか、今回はこのエレクトラについて書こうと思う。
 
 故ヴェルニケが演出したこのプロダクションは、オリジナルがバイエルン州立歌劇場の物で、同劇場からの貸出による再演である。
 2000年7月、私はミュンヘンでこの舞台を鑑賞した。当時のキャストは次のとおりだ。
 
指揮  ペーター・シュナイダー
ガブリエレ・シュナウト(エレクトラ)、マリアーナ・リポヴシェク(クリテムネストラ)、ナディーヌ・セクンデ(クリソテミス)、モンテ・ペダーソン(オレスト)  他
 
 「鮮烈」、そして「衝撃」だった。私はこの上演を決して忘れることが出来ない。これまでエレクトラを12回ほど観ているが、このミュンヘン・ヴェルニケ版を超える物に遭遇したことがない。史上最高のエレクトラがこれ。で、何が素晴らしかったかというと、ヴェルニケが解釈した演出だったのである。
 だから、このプロダクションをティーレマンの指揮でやると知った時、真剣にバーデン・バーデンに行くことを検討した。残念ながら行けなかったわけであるが・・・。
 
 当時、私が読み取ったヴェルニケのコンセプトは次のような物だった。
 
「物語を支配しているもの、それは『権威』。クリテムネストラもエギストも、人間としては小さいが、権威の傘の下で自分を大きく見せようとする。クリテムネストラが羽織る赤いガウンがその権威の象徴。(ミュンヘンでは、この赤いガウンがバイエルン州立歌劇場の緞帳を模していて、伝統の奢りを皮肉っていた。)父の復讐のために戻ってきたはずのオレスト。実は、彼が戻ってきた本当の目的は、エギストから王位の座を奪還することだった。目指すは権力。亡き父への感傷など微塵もない。企みどおり暗殺に成功し、権威を奪取して赤いガウンを羽織ったオレスト。自らがその権威を振りかざす番になって満悦のポーズを取る。その姿を見て、裏切られた思いに駆られたエレクトラは絶望し、手にしていた斧で自害する・・・」
 
 
 ここで、リバイバルとなったバーデン・バーデン上演の映像を見てみる。
 
 演出家は既に鬼籍に入っており、キャストも場所も変わってしまってはオリジナルコンセプトを忠実に再現することなど不可能。権威の象徴である赤いガウンは当然バイエルン州立劇場の緞帳から変わってしまっているし、オレストの行動やエレクトラの絶望の表情などもミュンヘンの初演版からかなり薄まってしまった印象である。そうなると、「10年前に私が感じ取った演出家の解釈は本当に正しかったのだろうか」と、逆に首を傾げてしまった次第だ。
 
 それでもなお、キュービックな舞台、シンボリックな原色、動きを減らしてスポットライトを当てるかのような登場人物配置などが与えるインパクトは強烈で、この名舞台が今も全く色褪せていないことは感じられた。
 
 歌手ではリンダ・ワトソンのエレクトラが素晴らしい。ここ数年で彼女は本当に成長したと思う。貫禄があり、自信がみなぎっている。バイロイトブリュンヒルデはダテじゃない。今や、ドイツ系重量ソプラノではポラスキーを凌いでいるのではないだろうか。大ベテランのルネ・コロが、容姿はかなり老けてしまったけど、未だ頑張っているのもうれしい。
 
 ティーレマンの音楽はさすがというべきだ。彼はオーケストラの能力をマックスに引き出すことが出来る類まれなる指揮者。ティーレマン節はここでも存分に聴ける。
 
 少々大げさかもしれないが、この映像はシュトラウスの魅力を余すところなく伝えているオペラ史上でも貴重な財産だと思う。国内盤がない(日本語対訳がない)のが誠に惜しい。