クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

オペラのカバー歌手

 12月16日、いよいよ新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」プレミエを間近に控え、指揮者の大野和士さんによるオペラトークが開催されたので、行ってみた。今回の新国立のトリスタン、全公演ソールドアウトという近年稀に見る異常人気(!?)だが、このオペラトークまでも前売り券完売(急遽、立ち見の当日券を販売)という過熱ぶり。いやはや恐れ入りました。
 
 大野さんの講演はこれまでも何度か聞いたことがある。自らピアノを弾き、歌手に歌ってもらって曲の見どころ聴きどころを解説するので、いわゆる音楽評論家や研究家のそれよりも説得力があって楽しめる。また、大野さん自身、結構トークがうまい。今回会場に駆けつけた多数のお客さんは皆楽しまれたのではないだろうか。
もっとも、誰にでも理解ができるように、ということで、内容は実に易しい。ワグネリアンなどのオペラマニアにとってはやや物足りないかも??
 
 私が今回参加して改めて思ったのは、カバー歌手の存在と意義だった。
 この日、聴きどころを実際に歌って示してくれた日本人歌手の皆さん(成田勝美さん、斉木健詞さん、並河寿美さん、池田香織さん)は、本公演のカバー歌手である。
 カバー歌手 - 彼ら彼女らが実際に舞台に立つことはほとんどない。万が一不測の事態が発生し、主キャストが歌えなくなった場合に備えているのである。主キャストがきちんと舞台に立って責任を全うすれば、彼らの出番は無しだ。
 
 で、スゴイのは、そのわずかな可能性のためにスケジュールを空け、本公演に向けて準備を万端に整えなければならないことである。要するに、彼らは出番の見込みがないと分かっていながら、歌詞を暗記し、音楽を暗譜し、自分のモノに仕立てあげなければならないのだ。もちろんプロとしての契約であり、ギャラだってもらえるのだろうけど、これ、本当にすごいことだと思う。
 
 特に今回の場合、主役のトリスタン役とイゾルデ役は大変だ。
 リブレットをご覧あれ。膨大な歌詞である。これを本当に覚えるのか!!日本語じゃないんだぞ。果たして自分に出来るか?ぜえーーっっったい無理だ。アンビリーバボー。
 
 特にイゾルデ役カバーの並河さん。この御方、3月にびわ湖ホール神奈川県民ホールの共催オペラ「アイーダ」のタイトルロールという重大な予定が入っているのである。イゾルデのカバーなんか引き受けている場合か??もう、本当に信じられない。
 
 我々公演を観に行くお客さんは、実にゲンキンだ。そんな縁の下の力持ちの方々の苦労なんかに想いを馳せることなどなく、表の一番華やかな部分だけを見て喜んでいる。ましてや、主役の急遽降板でキャストが変わろうものなら、大ブーイングだ。「まじ~??勘弁してよ~!!」ってな。
 
 今回のオペラトークに参加して、私はちょっとだけ彼らの苦労を慮った。お疲れ様です。
 
 でも、願わくば、メインキャストが落っこちることなく最後までお勤め全うしてくれることを望みます(笑)。