2010年11月18日 クリーヴランド管弦楽団 サントリーホール
指揮 フランツ・ウェルザー・メスト
内田光子(ピアノ)
クリーヴランド管、12年ぶりの来日ということらしいが、私は12年前の前回公演を聞き逃している。じゃあいったいいつ以来か、と調べてみたら、更に遡ること8年の1990年だった。つまり20年ぶりである。ずいぶんとまあ昔のことだなあ。その時はドホナーニ指揮によるマーラー9番だったが、「可もなく不可もなくフツー」といった程度の記憶しか残っていない。
だが、今回の公演を聴いて、改めてこのオケの素晴らしさを認識した。アメリカのオケにありがちな、音量が大きくてきらびやかでキンキンなサウンドではなく、艶があってしっとりとした木目調のヨーロピアンな響きである。ジョージ・セルが育んだ響きが今も脈々と伝わっていることを感じる。
伝統のサウンドを守り続けるのは誠に至難の業だと思うが、そこにウェルザー・メストという俊英を得ているのはとてつもなく大きい。
ウェルザー・メストの指揮は力みや誇張がなく、あくまでも自然である。ベートーヴェンが本来のベートーヴェンらしく鳴り響く。今回一緒に聞いた相棒のOくんは「改めて思ったけど、英雄はいい曲だねぇ」と感想を語ったが、そう思わせたのはまさにメストによる原点回帰の演奏の賜物だと思う。
つまり、ウェルザー・メストとクリーヴランド管弦楽団の組み合わせは最高ということだ。
小澤征爾は、ウィーン国立歌劇場の音楽監督就任にあたって、長年勤め上げたボストン響の監督の任を辞したが、今のところウェルザー・メストがこのオーケストラの監督を辞めるという噂は聞こえてこない。その必要もないだろう。だってこんなに相性がいいのだから。
クラシック海外組(海外を拠点にして活躍する日本人)の筆頭、内田光子によるベートーヴェンも良かった。内田光子の演奏は、外に発散する演奏ではなく、どこまでも内側に掘り進んでいくという点で、実に個性的である。そのストイックな姿勢は毎度のことながら感心する。
ちなみにこの日は両陛下ご臨席の天覧公演であった。前半のピアノ協奏曲のみでご帰還なされたが、願わくば後半の英雄も聞いていただきたかった。(内田光子にしてみれば、大変な名誉だったと思うが。)
それにしても、警備のすごさ、物々しさといったら・・・。まあねえ、にっぽん最大のVIPだもんねえ。仕方ないすかね。