クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2010/5/3 パリ・オペラ座

イメージ 1
 
 目覚まし時計はオペラに間に合うために十分な余裕を持って起こしてくれたのだが、‘案の定’気分が悪かった(笑)。調子づいて昼間からビールをがぶがぶ飲んだ自分がバカだった。
 早めに出発し、ホテルにほど近いパリ北東部のサン・マルタン運河沿いを散歩する。寒いが、冷たい風が酔いを冷まし、気分を引き締めてくれる(・・ような気がした、なんとなく)。カフェで苦いエスプレッソを一気飲みし、いざ
バスチーユへ。
 
 
2010年5月3日  パリ・オペラ座(バスチーユ劇場)
ブリテン  ビリー・バッド
指揮  ジェフリー・テイト
演出  フランチェスカ・ザンベッロ
キム・ベグリー(ヴェレ艦長)、ルーカス・ミーチェム(ビリー・バッド)、ギドン・サクス(クラッガード)、ミカエル・ドゥルイエ(レッドバーン)、パウル・ゲイ(フリント)  他
 

 いや、さすがパリだな。レンヌ、モンペリエと巡ってきたが、やはり世界トップクラスの歌劇場だけあって全てにおいてスケールの大きさを感じる。劇場(建物)の大きさ、ステージやオケピットの大きさ、舞台装置、もちろん歌手やオケ、指揮者のレベル・・・。
 
 この日の演目ビリー・バッド、ご存じであろうか。極めて異彩を放っている作品だ。
 出演者は全員が男性。軍艦内の出来事であるから、そうなるのも当然。必然的に音楽も武骨になる。
 
 イギリスとフランスの海戦場面がある。あくまでイギリスの側から取り上げているわけだが、戦闘の前にイギリス軍艦幹部が「オレはフランス野郎が大っ嫌い!」とか、「だいたい、あの言葉(フランス語)が気にくわん」とか、「なにが『ムッシュー』だよ、アホったら」とかのやりとりを交わすのであるが、これは面白い。おかしい。なぜって、それをここパリで上演するわけですからね。
 
 このシーンで、観客であるフランス人はいったいどういう気持ちで見るのだろう?
 特に「それに比べてイギリスは最高!ローストビーフは絶品だし!」というセリフがあるんだけど、もう笑っちゃうしかないよね。世界の食文化の頂点に立つフランスに対して、一般的にイギリスの食い物は「不味い」の一言ですからね。
 ということで、私は鑑賞前から、このシーンで観客がどういう反応を示すか興味津々だった。
  そしたら、案の定、このセリフの場面で館内にクスクス笑いが起きた。
 やっぱりそうだよね。オレも笑っちゃいます。オペラだからみんなお上品にクスクス笑いだったけど、そうじゃなかったら爆笑してもおかしくない。
 
 実はもう一カ所クスクス笑いが起きたシーンがあった。
 どもり症を持つビリー・バッドが、ぬれぎぬを着せられ、うまく口が回らず追い込まれた結果、悪漢クラッガードをぶん殴ってしまう。殴られたクラッガードは、それで死んでしまうのだ。

 ストーリー的にはそれでいいかもしれないけど、「おいおい、たった一発殴られて、それで死ぬかよ?」って感じでやや無理がある。
 案の定、この日の観客も「え?これで死んじゃうの?」ってことで笑いが起きたのだ。これも至極真っ当な反応だと思った。
 
 このように書いてみると、なんだかおちゃらけオペラのようだが、実際は、艦内で起きた殺人事件をどう処理するかを巡っての艦長の心理的葛藤や、閉じ込められた乗組員の人間関係など、考えさせられる要素が詰まった奥深い作品である。なかなか上演されないが、是非日本でも上演して欲しい名作、傑作だと思う。

 新国立劇場はせっかくイギリスにゆかりがある尾高さんが芸術監督になったのだから、是非このビリー・バッドをやってほしいと願う。(ま、ブリテンの中で一番有名な作品「ピーター・グライムズ」がやっぱりまず先かなー。)