新国立劇場よくやった。よくぞ、これだけのワーグナー歌いの精鋭を揃えたものである。
歌手はこのまんまバイロイトに連れて行けば、それで上演が可能だ。実際、ジークフリートのC・フランツとミーメのW・シュミットは、バイロイト現行ティーレマンリングの同役だし、それ以外でもY・ラッシライネンはクルヴェナール、I・テオリンはイゾルデということで、いずれもバイロイトの中心選手なのだ。
別に「バイロイトに出演しているから」と言って無条件に礼賛するつもりもないが、実際今回のジークフリート上演で歌手のレベルの高さは際立っていた。私自身はさすらい人のラッシライネンとアルベリヒのリンが素晴らしいと思った。
タイトルロールのC・フランツは(いちおう)現在における世界屈指のヘルデンテノール。
2002年にベルリン州立歌劇場と来日して指環通し上演でジークフリートを歌ったフランツは本当に素晴らしかった。あまりに凄くて、私は一度聴いた後、ただちに「ジークフリート」公演のチケットを再度買ってしまったくらいだ。
‘世界屈指’なわけだから出演オファーが殺到し、必然的に彼を聴く機会が増えるわけだが、ベルリン州立歌劇場来日公演、前回の新国立リング、一昨年12月にウィーンで聴いた「神々の黄昏」、そして今回といずれも彼のジークフリートを聴いて、まあ正直なところ「別の人のを聴いてみたいなあ」と思った(笑)。
順調なら今年の8月も、またまた彼のジークフリートを聴くことになろう。う~む。
ダン・エッティンガー指揮の東フィルも大健闘。ワーグナーの重厚なサウンドを醸し出していた。
東フィル、期するものがあったのではないだろうか。
ご存じの通り、前回の新国立リングで、せっかくラインゴールドとワルキューレを担当したのに、続くジークフリートからN響に変えられちゃったんだもんな。そりゃあないよな。
今回、「じょーだんじゃないよ、オレ達だってやれば出来るのだ」というプライドの一端を見せられたような気がする。
そんなわけなので、細かい事(例えば角笛ホルンソロとか)については目をつぶります(笑)。
指揮者エッティンガーは、ベルリンでバレンボイムに師事した俊英だ。バレンボイムと言えば、現代ワーグナー上演において他の追従を許さない横綱。当然、そこから学んだことも多々あろう。だからといって、先生のマネをするでもなく、オリジナリティを示し、持てる力を十分に発揮したと思う。
いよいよ次回は黄昏だ。
前回も見ているので、演出的には知っちゃっているわけだが、いったん記憶を消去した上で、初めて観るつもりで鑑賞したいと思う。期待大です。