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2009/9/24 ナクソス島のアリアドネ

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2009年9月24日 バイエルン州立歌劇場
R・シュトラウス  ナクソス島のアリアドネ
指揮 ジャック・ラコンベ
演出 ロバート・カーセン
アイケ・ヴィルム・シュルテ(音楽教師)、ダニエラ・シンドラム(作曲家)、クラウス・フローリアン・フォークト(バッカス)、ジェーン・アーチバルド(ツェルビネッタ)、アニヤ・カンペ(アリアドネ)、ニコライ・ボルチェフ(ハレルキン)他


 昨年に新演出改訂されたばかりのホヤホヤの作品。

 ところで、今回改訂前の98年に制作されたT・オルベリー演出の旧プロダクションはひどかった。単なる思いつきの陳腐なアイデアを並べただけで、何の思慮も感じられなかった。しかも傾斜付きの狭いステージやはしごなどから歌手を歌わせていたため、音楽的にも不安定だった。当然のごとくあっという間にレパートリーから消え去り(ざまーみろ)、今回満を持して世界的演出家R・カーセンが手がけただけに期待が高まる。
 再来年の日本公演の演目にも決まっており、いずれ日本のファンにもお目見えすることになるが、先取りしてご紹介しようと思う。


 年代は完全に現代に置き換わっている。場所は貴族の館ではなく、「財を成した投資家がスポンサー提供した舞台芸術作品の制作現場」という感じである。
 開場して舞台席に入ると、既に舞台が開いていてそこで演技がもう始まっている。ダンサー達が各自トレーニングやストレッチ、練習に余念がない。そこに金持ち投資家が様子を見に現れる。出来具合を見てもらおうと振付トレーナーが合図を出すのと同時に指揮者がタクトを振り下ろし、音楽が開始される。前奏曲に合わせてリズミカルに踊るダンスが音楽と見事に融合。鳥肌が立つほどの素晴らしい視覚演出である。

 前半部で登場するツェルビネッタとその仲間達は、下品で粗野この上ないヘビメタ集団。
 今や「アリアドネ」の現代上演では、彼らを「昔ながらの愉快なコメディアデラルテ一座」として登場させることはほとんど皆無と言っていいが、じゃあどうするかというと、たいてい今回のような「下品なヘビメタ集団」になってしまうわけで、毎度のパターンに「出たよ、またかよ」と失笑してしまう。もうちょっと何とかならんのかのう・・・。

 ま、それはいいや。
 素晴らしいのは、前半部に登場する人物の全てが‘完璧な役者’になっていることで、その演技に驚嘆の念を抱く。あたかも演劇を観ているようだ。 カーセンが微に入り細に入る演技指導を行っていることが明白で、まさに天才演出家の面目躍如である。
 こういう高度な演出を時々見せられるものだから、私はついつい「棒立ちで、まっすぐ観客席に向かって手をかざしながら歌う歌手の緩慢な演技」を紛弾したくなるのだ。

 と言いつつ、今回の場合、振付がやや過ぎて目に余る場面も。
 特に後半部の、例の‘ツェルビネッタの長大なアリア’では、ただでさえ歌うのが至難なのに、踊らせ、動かし、回し、持ち上げるから、観ているこっちがヒヤヒヤする。
 案の定、J・アーチバルドのアリアは不完全燃焼だ。将来性を予感させる若い歌手だが、超絶技巧の難曲と、あまりにも高度すぎる演技の両立はまだ無理だ。初演のツェルビネッタ、D・ダムラウはどうだったのだろう?来日公演では是非ダムラウに歌ってもらいたいものである。

 第一部のドタバタが終わり、休憩は無く、作曲家が色々ありながらもようやく初演にこぎ着けた自作のスコアを、ピットにいる指揮者に手渡して第二部が始まる。(粋な演出!)作曲家は舞台袖に引っ込まず、舞台の脇に座って初演を見守る。歌もセリフもないのに演出の都合で最後までずっと付き合わされるわけだ。
 ここで作曲家がじっと座って舞台を眺めているわけであるが、アリアドネのアリアの場面では、自らが創造した音楽に身を乗り出してうっとりと聴き入り、ハレルキンたちが出てくるとブスッとした表情で頭を抱え、うつむく・・・私は舞台上の変化が起きるたびに端っこに座っている作曲家:ダニエラ・シンドラムの表情を伺っていたが、これが実に面白かった。

 第二部の舞台は、もう完全にR・カーセンの世界だ。
 カーセン演出の舞台を何度か見たことある人なら、分かるだろう。アレですよアレ(笑)。
あんまりネタばらしするのはよくないので、再来年をお楽しみに。

 私が特にうれしかったのは、一番最後、二重唱が終わって音楽が完全に終結した後、観客の盛大な拍手とともに、出演者が舞台横に座っていた作曲家を一斉かつ盛大に出迎え、讃え、肩車をして祝福したことだ。照れながらも喜びを隠さない作曲家。堅苦しいオペラと軟派なブッファの美しい和解。芸術は一つ。私はこのオペラで特に作曲家に多大なシンパシーを抱いているので、このエンディングは本当に感動し、涙が出た。

 舞台演出のことばかりになってしまった。
 歌手については個々の評価はあるにせよ、全体的には「まあまあ」の域を出なかった。アリアドネを歌ったA・カンペの出来はやや不満。彼女だったらもっと良い物を持っているはず。

 指揮者であるが、当初発表されていたA・フィッシュが降板となり、私の知らないラコンベという人に替わったが、特に強いインパクトは無し。それ故、初演を手がけ、来日公演でも振るであろう音楽監督のK・ナガノの音楽を楽しみにしたいと思う。

 最後に。
 この日の公演については友人分のキャンセルチケットはディスカウント値引きして何とか売りさばけた。チケットを買っていただき、私の隣の席に座った初老の男性は私にこう尋ねた。

オクトーバーフェストには行かないのですか??」

 だからそれを言ってくれるなってば!(笑)