クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1995/5/26 ミラノスカラ座 1

 ついにこの日がやってきた。
 今日はいよいよミラノである。スカラ座の「椿姫」の日である。

 チケットは、「ない」。
 頑張ったが、取れなかった。だからといって、「うむ、残念」などと諦めるわけにはいかんぞ。私をただの観光客と思ってもらっては困る。こちとら筋金入ったオペラファンだ。絶対に乗り込んでやる!  とまあ、気合い入りまくり。

 とにもかくにも、いざ出陣。早朝、朝食も取らずにジェノヴァのホテルを出発。午前6時半くらいの電車に乗って約一時間でミラノ中央駅に到着。そのまままっすぐスカラ座へ向かった。

 公演は夜なのにこんなにも朝早く向かったのは訳がある。

 ご存じの方も多いと思うが、スカラ座ウィーン国立歌劇場と同様、一般前売り券とは別に、当日のみ発売される立ち見席がある(※)。つまり、我々のように前売り券を買い損ねても、まだ最後のチャンスがあるというわけだ。
この立ち見席の発売は開演時間の直前だが、その時間までずっと並び続けるのはさすがに辛かろう。
 そこでスカラ座天井桟敷(立ち見エリア)に棲む主たちは仲間同士でルールを作った。先着順登録制だ。
 名簿を管理し、立ち見ルールを統括するリーダーさん(スカラ座の職員とは一切関係ない)に自分の名前を登録してもらう。そうすれば、あとは発売時間まで自由行動を許される。ただし、何度か一定の時間に点呼があり、これに参加しなければならない。点呼時間に集合して返事をしなければ、問答無用でリストから外されてしまうのである。
 ちなみに、立ち見席の数はおよそ「200」である。

(※)一時、この立ち見席が廃止になったようだが、その後復活したとの話も聞く。現在も立ち見席と上記のような購入ルールがあるかどうか、実を言うと私は知らない。今、どうなっているか、どなたかご存じですか?


 私は‘何となく’楽観していた。
 朝8時くらいならば、何とか200番以内を取れるだろう、と。
 というのも、何かの記事に「スカラ座の立ち見席をゲットしたければ、遅くとも午前9時前には到着すべし」とか書いてあったような・・・気が・・したような・・たぶん・・・おそらく・・・。

あ・ま・か・っ・た!!!!

 スカラ座の前に到着し、あたりを見渡すと、いたいた!いかにも「親分」みたいな白髪のおじさんが。イスにドンと座っている。手にはリストが。
 緊張でドキドキしながらおじさんが持っているリストを覗き込んだところ、そこにはたくさんの名前と番号が。一番最後は「238」。

にひゃくさんじゅうはち?!?!
ダ・メ・じゃん!?

 もちろん、点呼に漏れて何人かきっと繰り上がることだろう。だけど、38人も回ってくるとは思えないわな。

「あ゛ぁ~っ」と天を仰ぐ私。参ったなあ。

 そんな我々をじっと観察していた一人の男ありけり。ジーパンにカラフルなTシャツを着た大柄の、どう見てもオペラとは縁もなさそうなオヤジだった。そのオヤジが近寄ってきてニコニコしながら声を掛けてきた。

「私にお任せを。大丈夫です。立ち見の席を用意いたしましょう。」

出たあ!やっぱり出現したかダフ屋。そう来ると思ったぜ。チケットの入手が困難であればあるほど彼らの出番、暗躍するというわけだ。

「で、おいくら?」「15万リラでいいですがな。」

うーむ。約1万円か。その時点で立ち見席の定価がいくらかは知らなかった。だが、どうせ千円もしないだろう。そんな席を1万円とは実に足元を見たいい値段だ。

 だが、私は即決即答。「お願いします。」
 値段は二の次。スカラ座のチケットを取ることが最大のミッションなのだ。

 とは言え、私はこのカラフルTシャツオヤジがどうも信用ならなかった。ホントに大丈夫なのか一抹の不安があった。普通、ダフ屋と交渉し、示談成立したら、その場でお金とブツを交換だ。ところが今回の場合、あくまでも「これから手に入れてあげますからね。」だ。もちろん、お金は前払いではなく成功報酬だが、開演直前になって「やっぱダメだった」は絶対にイヤなのだ。

 このため、ダフ交渉成立後も、我々はスカラ座のボックスオフィスや事務局を訪ね、当日券の有無などを調べ回った。(そんなもん、あるわけないのだが)
 そのたびにダフオヤジが我々を追ってくる。「何をしているんだ?他の日の公演が欲しいのか?そうじゃないんだったら任せなさいって。ノープロブレム。」つきまとうオヤジ。

 どっちにしても、他に方法はない。このオヤジに運命を託そう。頼むぞカラフルTシャツオヤジ!

 こうして我々はスカラ座を離れ、ようやくミラノ市内観光となった。


 つづく。