クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

若杉先生を悼む

 若杉先生が天に召された。闘病生活を続けておられたので心配していたが、心よりご冥福をお祈りする。
 先生が日本のクラシック音楽界に残した多大なる功績は計り知れない。日本は偉大な芸術家を失ってしまった。

 日本における活動もさることながら、ケルン放送交響楽団首席指揮者、ライン・ドイツ・オペラ音楽総監督、ドレスデン国立歌劇場常任指揮者、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団首席指揮者などという世界的な劇場や楽団の要職を務められたその経歴は燦然と輝くばかりだ。

 私が最初に先生の名を知ったのは、1983年ケルン放響との来日公演パンフレットを手に取った時。マーラー9番がプログラムにあった。公演には行かなかったが、「海外で活躍している指揮者は小澤さんだけじゃないんだ。すごいなあ。」と呟いたものだ。

 初めて実公演に接したのは1986年2月の都響定期で、メシアンのトゥランガリーラ交響曲。ピアノがミシェル・ベロフ。曲は難解だったが、自信満々でタクトを振っていた先生をはっきり覚えている。

 その次が、同年10月サントリーホールオープニング記念シリーズでのマーラー8番‘千人’。ルチア・ポップベルント・ヴァイクル、ペーター・ザイフェルト等のドイツの一流歌手が出演したこの公演、いやはや超弩級の名演だった。
 この交響曲は二部構成になっている。観客は素人ではないから楽章間に拍手は不要なことくらいみんな知っている。にもかかわらず、第一部終了後拍手が起きた。パラパラ、ではない。盛大にだ。拍手せずにはいられないくらいの渾身かつ圧倒的な凄さだったのだ。


 先生は数々のオペラ日本初演を手がけたパイオニアだ。加えて、ドイツで勉強し、ヨーゼフ・カイルベルトに師事したこともあって、R・シュトラウスを得意にし、アラベッラ、エジプトのヘレナ、インテルメッツォ、ダフネなどの諸作品を採り上げてくれた。シュトラウスファンにとって、先生はまさに恩人だ。来年の新国立劇場で大作「影のない女」が予定されていただけに、本当に残念でならない。先生もそれだけは心残りであろう。

 思い出話を一つ。

 私は日本R・シュトラウス協会に入会しているのだが、4年くらい前だったか、同協会の例会で、ウィーン国立歌劇場が上演したシュトラウスの「ダフネ」新演出の映像が手に入ったということでビデオ鑑賞会が催された。
 上演が終了したところで、司会を務めた事務局長さんが「なんと、本日は飛び入りで若杉先生がいらしていますよ!」
 本当にこっそり忍び込んだかのように、一番後ろの席に座っていた若杉先生。紹介を受けると一同盛大な拍手。先生は照れながら起立された。

 ここで司会が「ダフネの日本初演はなんとしても先生にやっていただかないと!是非お願いします!」と話されると、一同もう一度大拍手。先生は「皆さんのご期待に応えられるように・・」と静かに答えてくださり、またまたワーっと盛り上がった。それはシュトラウスファン一同と先生との間に生まれた素敵な和みであった。

 その後、2007年2月に二期会で、まさに若杉先生のタクトで日本初演が為されたことは言うまでもないのだが、実は上記の例会の時点で既に公演の実現が予定されていたのでしょうね。

 若杉さん、本当にお疲れさまでした。
 天国でシュトラウスに会ってきてください。ワーグナーにも。きっと褒めてくれると思います。