クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2024/10/12 新国立 夢遊病の女

2024年10月12日   新国立劇場
ベッリーニ   夢遊病の女
指揮  マウリツィオ・ベニーニ
演出  バルバラ・リュック
管弦楽  東京フィルハーモニー交響楽団
アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)、クラウディア・ムスキオ(アミーナ)、妻屋秀和(ロドルフォ)、谷口睦美(テレーザ)、伊藤晴(リーザ)、近藤圭(アレッシオ)   他

 

新国立劇場は、主催公演として今回初めてベッリーニのオペラを上演した。
(※共催という形で、これまでに「清教徒」「ノルマ」を上演したことがある。)
ベルカント・オペラの華であるベッリーニに対し、随分とまあ寂しい取扱いだと思うが、同劇場の超オーソドックス路線の中で、わずかでもこれまで光を当てられなかった作品を取り上げる試みは良いことだし、大野芸術監督の「らしさ」だと思う。

その初ベッリーニの上演に際し、指揮者にM・ベニーニを迎えたのは、ベストの選択と言っていいだろう。劇場の叩き上げ指揮者であり、ジャナンドレア・ガヴァッツェーニやジャンルイジ・ジェルメッティのような職人マエストロ。
近年、新国立劇場にも度々登場しているし、本プロダクションの初演となったテアトロ・レアル(マドリード王立劇場)でもタクトを振ったという。おそらく本作品をこれまでに何十回と指揮をし、熟知しているに違いない。

ピットから聴こえてくる柔らかい旋律を聴けば、マエストロ・ベニーニがいかに丁寧に演奏を作っているかが、手に取るように分かる。ステージ上の歌唱だけでなく、ピットのオーケストラにもしっかりと歌わせている。
ベルカント」というのは、直訳すると「美しい声」だが、声だけでなく音楽そのものを美しく引き立たせるコツ、ツボを押さえているわけである。
そして、音色には、そう、言葉のとおりちゃんと‘色’が着いている。その色は、場面によって、登場人物の心情によって、コロコロと変化する。これにより「薄っぺらくて平坦」と言われがちなベリーニの音楽が、立体感を持って沸き立つ。

これこそが、マエストロ・ベニーニの職人の極意だろう。


歌手について。
きっと多くの聴衆がアミーナ役のC・ムスキオの素晴らしさに感嘆したと思うが、私は7月に彼女の同役を聴いていたので、今回、新鮮な驚きというのは無かった。
むしろ、別の意味での驚きで、「こんなに素晴らしい才能の持ち主であっても、ドイツの一劇場の専属歌手にすぎない」という事実。
世界におけるオペラ歌手の層は厚い。そして、一流と呼ばれ、フリーとして世界の劇場を股にかけて活躍する歌手というのは、ほんの一握りだという厳しい現状。

エルヴィーノ役のA・シラグーサについては、もはや何も言うまい。
まさに、上に書いた「ほんの一握りの一流」。あっぱれ、お見事、それだけ。あざーす。

ロドルフォ役の妻屋さんも、好演。
今回、いつもの妻屋さんとは、ちょっと歌い方が違っていた気がした。ベルカント・オペラということで、音楽に合わせて本人が意識して変えてきたのか、それともマエストロ・ベニーニのアドバイスによるものなのか。前者のような気がするが、いずれにしてもイタリア語の言葉を旋律に上手に乗せるように工夫していたと思う。


演出について。
現代の視点、女性演出家ならではの視点で本作品を捉えている。
のどかな田舎での恋愛物語という設定から離れ、アミーナの不安定な精神世界に切り込むと同時に、現代女性として、「この物語を単純なハッピーエンドで終わらせてはいけない」という主張が伺える。

私も同意だ。
ちょっとした行き違いや誤解によって不貞が疑われ、無実を訴えても恋人は一切聞く耳を持たず、婚約指輪を取り上げられ、挙句の果てに別の女性と結婚しようとする。
こんなひどい仕打ちを受けて、「誤解が解けました、あなたは無実でした、じゃあまた結婚しましょう!」とか言われても、現代女性なら「冗談じゃないわよ、こっちからお断りよ!」になるだろう。

ただし、あからさまに「破局」とするのではなく、それを伺わせつつ、「この先、二人はどうなるのだろうか・・」という暗示で締めくくるというのが、ナイス。

近年の「コシ・ファン・トゥッテ」演出の傾向と似ているね。

それに、あからさまに破局にすると、ベッリーニの音楽との乖離が生じる。そこらへんも演出家はちゃんと踏まえていたと思う。

そのほか、アミーナの精神的・病的な闇の世界を表現するダンサーの動きも面白かったし、群衆(合唱)の演技をあえて制限し、動かさないようにして、「衆目の冷たさ」を表していたのも、際立っていた。


最後に。
ラストシーンで、アミーナが家の2階の狭くて手摺の無いテラス上で歌う姿に、「落ちたら危ないのではないか」とヒヤヒヤしながら見つめていた観客、多いと思う。

あれ、ちゃんと命綱ロープを装着していました。見えないように、うまく衣装の中に隠していましたが、私、しっかり見つけてしまいました。オペラグラスで思い切り覗いて探しちゃいました(笑)。