2023年5月7日 三河市民オペラ アイプラザ豊橋
ジョルダーノ アンドレア・シェニエ
指揮 園田隆一郎
演出 高岸未朝
管弦楽 セントラル愛知交響楽団
合唱 三河市民オペラ合唱団
笛田博昭(アンドレア・シェニエ)、今井俊輔(カルロ・ジェラール)、小林厚子(マッダレーナ)、加藤のぞみ(ベルシ)、谷口睦美(コワニー伯爵夫人)、相可佐代子(マデロン)、池内響(ルシェ)、杉尾真吾(マテュー)、中井亮一(密偵) 他
この市民オペラのことを「所詮はローカル」などと、決して侮ってはならない。東京でも大阪でも名古屋でもない、豊橋という都市で開催されたオペラ公演に、日本を代表する歌手たちが集結した。
6日(土)、7日(日)と二日かけて行われた公演にはダブルキャストが組まれ、私が鑑賞したのは二日目だったが、初日には樋口達哉氏(アンドレア・シェニエ)、上江隼人氏(カルロ・ジェラール)、森谷真理氏(マッダレーナ)、山下裕賀氏(ベルシ)といった面々が名を連ねていた。日本のトップ歌手たちの活躍を目の当たりにしたいのだったら、両日聴いたって全然オッケーなくらいのネームがずらりと並んだわけである。
しかも、指揮はオペラに定評がある園田さんだし。
・・と言いつつ、私の関心は専ら「アンドレア・シェニエ」という曲を聴くことに絞られていたわけであるが・・・。
珠玉の名作、アンドレア・シェニエ。
こんなにもいい曲なのに、なぜかあまり上演されない。新国立劇場のレパートリーにかろうじて入っているようだが、直近では2016年が最後だ。(記憶に間違いがなければ。間違いだったら誰か指摘して。)
日本での上演なんか待っていられないから、私はこれまでにカターニャ、パリ、ミラノへと飛んだ。それに比べれば、豊橋なんてご近所も同然なのだ。
上に書いたとおり「専ら作品の鑑賞だけ」ということなら、その意味では、どういうキャストであったとしてもその目的は達していた。
だが、そこはやはり日本を代表する歌手たちの集結。演奏面においてもかなり良い成果が見られ、満足感(十分とまではいかなかったが)を得られたのは、結果的に良かった。
特に、シェニエ役の笛田さん。ダントツの立役者である。
断言してしまうが、彼こそ日本ナンバーワンのテノール。「彼が出演したことにより、本公演は成功した」と言っても、もしかしたら過言ではない。
イタリア物を中心に色々なテノールの主役級を物にしているが、このシェニエこそ彼の声にもっとも適した、もっともハマる役なのではないだろうか。彼のシェニエを聴くだけでも、わざわざ豊橋まで出掛けていく価値があると思う。
私なんか「海外にチャレンジすればいいのになあ」とマジに思う。なんでそうしないのか不思議に思う。
あえて苦言を呈するならば、歌唱には何の不満もないが、アリアを歌う時、真正面の客席を向いて左右の両手をかざし、「オペラ歌手の歌い方典型ポーズ」で棒立ちすること。
ダサい。ダメだよ、そんなポーズじゃ。そうやって歌っている歌手、今どきの欧米の劇場にはいないよ。
もっとも、これは笛田さんだけに限らないけどな。
指揮の園田さんあたりがきちんと指摘してあげなきゃ。
マッダレーナの小林さんも申し分ない。そういえば、7月の東京フィルの「オテロ」(チョン・ミョンフン指揮)のデズデモナ、確か彼女だったよな。期待が高まる。
今井さんも日本のトップ・バリトンの一人だが、私はどうも彼の歌い方、具体的に言うとヴィブラート、波長の長い「ウアウアウア~」が好きじゃない。
今回、頑張っていたが、頑張りすぎて一部の高音で声が割れたのは最悪の事態だった。コントロール出来なかったのか、それとも単に調子が悪かったのか。
指揮者園田さんが築いた音楽については、残念ながら諸手を挙げて称賛することが出来ない。
申し訳ないが、彼は歌手にリスペクトしすぎている。コンサート指揮者ではなく、オペラ叩き上げ指揮者だから、きっとそうなっちゃうんだろうな。
これがロッシーニとかドニゼッティとかベッリーニだったら、きっといいだろう。
だが、ジョルダーノのこの作品であの鳴らせ方はショボい。伴奏に徹して下支えするのではなく、オーケストラを雄弁に語らせ、歌手には「このオーケストラの波の上に果敢に乗ってこい」と厳しく注文をつけるべきだ。
でも、園田さんは歌手の気持ちが分かる指揮者、歌手という人種を知っている指揮者だからそうしないんだろうな。
それに、そもそもオーケストラの編成が室内管程度だったし。あの人数では所詮無理だったか。
演出には何の期待もしていなかったが、まあオペラらしい舞台作りにはなっていた。上出来。だって、三河市民オペラなんだから。
ロビーに展示されていた舞台模型。