クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/1/22 ベルカント・オペラ・フェスティバル・イン・ジャパン

2023年1月22日   ベルカント・オペラ・フェスティバル・イン・ジャパン   テアトロ・ジーリオ・ショウワ
ロッシーニ  オテロ
指揮  イヴァン・ロペス・レイノー
演出  ルイス・エルネスト・ドーニャス
管弦楽  ザ・オペラ・バンド
合唱  藤原歌劇団
ジョン・オズボーン(オテロ)、レオノール・ボニッジャ(デズデモナ)、ミケーレ・アンジェリーニ(ロドリーゴ)、アントニオ・マンドリッロ(イヤーゴ)、トーニ・ネジチュ(エルミーロ)   他


藤原歌劇団の公演を主催する日本オペラ振興会が立ち上げたベルカント・オペラ・フェスティバル。イタリアのヴァッレ・ディトリア音楽祭(マルティナ・フランカ)と提携し、今年で5回目を迎えるという。

このフェスティバルのことは、いちおう名前だけ知っていたものの、これまで足を運んだことは一度も無かった。
なぜなら、このフェスティバルがこれまで採り上げてきた演目は、どれもこれもマイナーな作品ばかり。「聴いたこともない、作曲者の名前さえ知らない、予習も出来ない、今後もまず聴く機会は無い」みたいなレア物は、はっきり言って私はまったく興味がないんでね。

もっとも、「ヴァッレ・ディトリア音楽祭と提携する」ということは、つまりそういうことになる。これが伝統ある音楽祭の尖ったポリシーだからだ。
世界遺産で有名な観光地アルベロベッロに近いマルティナ・フランカで開催されるこの音楽祭は、私も「いつか行ってみたい」と思っている憧れのフェスティバルの一つだが、その上演プログラムを眺めては毎度閉口し、二の足を踏んでしまう。)


その近づき難いほどマニアックなフェスティバルが、今年はなんとロッシーニの名作セリアを上演するという。しかも、「最高のロッシーニ歌手の一人」と名高いJ・オズボーンがキャストに名を連ねた。
チャンスの到来。
日頃より「日本では一部の作品を除きロッシーニの良質作品を観ることが出来ない」と嘆き、そして諦めている私にとって、これは絶対に逃してはいけない公演であった。

ロッシーニ上演で成功に欠かせないもの。
これはもう、一にも二にも「歌手」である。それに尽きる。絶対と言ってもいい。
日本で一部を除きロッシーニの良質作品を観ることが出来ないのは、作品の知名度や人気度の問題という面もあるが、「それだけの良質な歌手を揃えることが極めて難しいから」というのが、まことしやかに囁かれる定説だ。
その点今回は、主要キャストがオズボーンを始めとする海外組でバッチリ揃った。「外国人歌手だから」と、あっちの人を盲目的に礼賛するつもりはないが、でも申し訳ないけどやっぱり技術が違う。イタリアの著名音楽祭と提携したからこそ実現したこのハイレベルなキャストは、諸手を挙げて歓迎したい。

かくして「欠かせないもの」が揃った。ということは、すなわち成功は確約されたも同然。しかも「特大二重丸」付き。

日本でこれほどレベルの高いロッシーニを聴くことが出来たのは、いったいいつ以来だろう・・。久しく記憶がない。もしかしたら2008年に来日した御本家「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」以来かもしれない。
てことは、15年ぶりということか。感慨深い。

名歌手たちの饗宴。息を呑むほどのアジリタ、強烈な超高音アクート。なんという凄さ・・・。
私は心の中で叫んでいた。
「これなんだよ! ホンモノってこれなんだよ! これがロッシーニなんだよ! オレはこれを聴きたかったんだよ!」

オズボーンはさすがだった。世界最高のロッシーニ歌いの格を存分に見せつけ、会場に熱狂が渦巻いた。コロナによる自粛がなかったら、大ブラヴォーの雨あられとなったことだろう。
だが、決して一人舞台だったわけではなく、ロドリーゴのアンジェリーニも、デズデモナのボニッジャも素晴らしかった。
(些細なツッコミで申し訳ないが、プログラムに掲載されていたオズボーンのプロフィールに「今回が初来日」と書いてあるが、彼は2014年リヨン国立歌劇場の来日公演「ホフマン物語」ホフマン役で既に来日している。)


演出についてはほとんど期待していなかったが、ちゃんと演出家の意図しているものが見つけられて、なかなか面白かった。
鍵となっている道具があって、それはロープなのだが、良い物に目を付けたな、という感じ。
ロープというのは、変幻自在の万能具。絡み付いて解けない苦しみであったり、運命から逃れられない縛りであったり、緊迫するテンションであったりする。関係を隔てる柵になり、極めつけは首を締め付ける殺人道具になる。
舞台の進行や登場人物の心情に合わせ、このロープを意味有りげに使っていて、とても効果的だった。