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2022/11/5 A・メルニコフ ピアノリサイタル

2022年11月5日   アレクサンドル・メルニコフ ピアノリサイタル  トッパンホール
ドビュッシー  前奏曲集 第2集
ベルリオーズ  幻想交響曲(リスト編曲版)


前回の2021年1月、メルニコフは厳しい入国制限の中、2週間の隔離待機条件を受け入れて来日した。その時のリサイタルでは、チェンバロを含む4台の鍵盤楽器をステージに並べ、作品に応じた弾き分けを試みるというユニークな企画を実行したらしく、私もその評判を耳にした。

また、この時、同じく2週間隔離待機を受け入れて来日したヴァイオリンのイザベル・ファウストとのデュオ・リサイタルも併せて行っていて、この公演には私も会場に足を運んだ。

ただ、残念なことに、メルニコフの印象はあまり強く残っていない。
印象が薄いということは、ある意味、伴奏あるいはアンサンブルに徹していたとも言えるわけで、決してネガティブに捉える必要はない。だが、ソリストとしての活躍も目覚ましいメルニコフにしては少々控え気味だったのかな、という感じがしないでもない。

今回はソロ・リサイタルで、彼の実力の程をじっくり伺えるチャンスの到来だ。
何と言っても、プログラムがいい。
まず、ドビュッシー前奏曲集第2集。
一般的に、第1集のほうがより印象派っぽくて人気がある。リサイタルで採り上げられるのは圧倒的にこっちだ。
第2集は、より複雑でシニカルで難しい気がする。でも、音形が高度でテクニカルであり、音の跳躍も鋭く、音楽的に無限の広がりが感じられる。私はこっちの方が断然好きだ。

次に、ピアノ版幻想交響曲
言わずと知れた、ベルリオーズの傑作のリスト編曲版。リストはベートーヴェン交響曲ワーグナー作品などのピアノ編曲版を世に出しているが、幻想も彼の手にかかっているとは知らなかった。ピアノ曲としてどんな感じに仕上がり、どんなふうに聴こえるのか、興味津々だ。


メルニコフの演奏は、デュオの伴奏の時と打って変わるのはある意味当然だが、ダイナミックなピアニズムで、ホールを完全に制圧した。
いかにもロシア出身ピアニストらしい、打鍵が強くて重い音。これでフランス物を奏でるわけだから、本来なら違和感があってもおかしくない。
だが実際には、色彩ではなく、彫琢の深さで音楽を作り上げようとするアプローチであり、遙かなる創造性を感じさせる。違う志向性であるが故に、一層存在感と独自性が際立つわけである。


管弦楽作品のピアノ編曲版を聴くと、聴覚でピアノの音を感じつつ、往々にして脳内でオーケストラサウンドが鳴っている、なんて現象がよく起こる。
ところが、今回の幻想を聴いても、頭の中で何の変換作業も行われなかった。メルニコフのピアニズムに圧倒され、説得力を伴って心に響いた証左であろう。