クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1990/11/26 ウィーン5

「外国語で何て言うのか分からない」事件がまた起きてしまった。
同じ日に2度も・・。

フォルクス・オーパーの劇場で、コートをクロークに預けた。引き換えとして、預り証を受け取った。番号の記載されたカード、というか紙切れの半券だった。
終演後、コートを引き取ろうとしたら、その紙切れが見当たらない。
ポケット、財布やカードケースの中、ありそうなところをくまなく探したが、無い。

んー、これはマズイぞ。まさか失くしたか。

何度も自分の体をまさぐったが、どうしても出てこない。仕方がないので、私は諦め、クロークの係員に申し出ることにした。
すみません、引換券が見当たりません。どうやら紛失したようです・・・・

ん?? ちょっと待て。紛失した、失くした、英語でなんて言うんだっけ??
ん?? 思い出せない。なんて言うんだ? あれ? あらら~??

昼間にグリンツィングに行った時、「墓地」という単語が出てこなかったのは、それはその言葉の外国語を知らなかったからだ。知らないものはいくら考えたって浮かばない。だからどうしようもない。

今、私が探している言葉「失くした」は、明らかに学校で習い、知っている単語のはず。つまり、「ど忘れ」である。だから「何だっけ? 何だっけ?」と必死に思い出そうと頭を巡らした。しかし、どうにもこうにも出てこない。

やれやれ。中学生に笑われちゃうね。
正解はロスト。lost。loseの過去形。ロストバゲージのロスト。簡単な初級英単語だよな。

このロストがどうしても出てこなかった。焦りまくった私。身振り手振りはもう懲り懲り、イヤだ。こうなったら、何か類義語はないか、言い換えられる単語はないか、他に相手に伝わる言葉はないか・・。

一つの英単語が浮かんだ。もうこれしかないと思った。その瞬間はあながち変な言い換えではないと思った。十分にこれで伝わると思い、私は係員のおばさんに言った。

「チケット、ディサピアード  The ticket I received, disappeared・・・」

ディサピアー disappear  消える    ディサピアード disappeared  消えた

引換券は消えた・・そうなのだ。捨ててないんだから、消えたんだ。信じてくれよ~。

この時私の申し出を聞いた係員のおばさんの驚いた顔を、私は終生忘れることはないだろう。
目ん玉をひん剥き、口を開け、その顔を思い切り私の顔に近づけ、
「でぃっさぁーぴああ~~ど???」

「はああ~???? 『消えた』だって???」みたいな感じだね。

顔から火が噴いたのが分かった。恥ずかしくて、まともに相手の顔を見ることが出来ず、伏し目がちに黙ってこっくり「うん」と頷いた。穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。

心の中で呟く。
「うっせーなぁ・・・。あーそうだよ、消えたんだよ。本当に消えたんだよ。文句あっかよ。もう頼むよ。勘弁してよ。あーうぜぇ。くっそー。」

そうしている間にも、クロークはお客さんが次々とやってきて自分のコートや荷物を引き取っていき、だんだんと数が減っていった。やがて、最後にぽつんと一つ残った私のコート。

「あれですよ、あれ! 私のコート。あれです!」

他に誰も引き取りをするお客さんがいなくなり、最後、私だけが一人残っていることを確認して、ようやくコートは無事返却された。引換券ナシで。

ホテル(ペンション)に戻る道中でも、私はずっと引きずり、落ち込んでいた。
またブツブツと呟く。
「ちくしょう。なんてこった。こんなことになるとは。ホント恥ずかしい。しかも、一日に2度もだ。あーイヤだ。で、結局『失くした』ってなんて言うんだよぉ~・・・」

突然頭に灯りがポッと点灯した。
「ロスト・・ロストだ。そうだよ、ロストだよ・・」
「くっそー、何だよ、何でロストが出てこないんだよ。何であの時出てこなくて、今思い出すんだよ。ったくもう・・。」


ホテルの部屋に戻った。上着を脱ぎ、ポケットの中から財布などの小物類を取り出した。
そのうちの一つ、手帳を取り出した時、そのページとページの挟み込んだ間から、ひらひらと一枚の紙切れが舞い落ちた・・・。

「あ”あ”ぁーー! ぐあぁ~~! ■●※§々∀▲っっっ!!!!!」

とりあえず、ベッドに八つ当たりで蹴りをぶっ込んだ。

1990年11月のウィーン旅行記、おわり。