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2022/9/10 N響 A定期

2022年9月10日   NHK交響楽団 A定期演奏会   NHKホール
指揮  ファビオ・ルイージ
合唱  新国立劇場合唱団
ヒブラ・ゲルズマーワ(ソプラノ)、オレシア・ベトロヴァ(メゾ・ソプラノ)、ルネ・バルベラ(テノール)、クワンチュル・ユン(バス)


ルイージの首席指揮者就任記念を兼ね合わせたシーズン開幕公演。
まず、船出となる今月の3つの定期公演の演目ラインナップを眺めてみる。
ヴェルディ、R・シュトラウスブラームス、そしてベートーヴェン
彼が積み上げてきたキャリアの中で、核心と位置付けられる重要な作曲家たち。指揮者の自信と気概がひしひしと感じられる重厚なプログラム。
挨拶代わりとして、これ以上に相応しい演目は無いだろう。

合唱、そしてフルオーケストラの面々がステージを埋め尽くし、期待の込められた熱い拍手に迎えられて、颯爽と指揮台に上がったルイージ。これまでに何度も彼が指揮した演奏会に行っているが、N響を率いる首席指揮者として登壇したその姿は、風格もあって、ゾクッとするくらいカッコいい。

そして、彼の指先の導入により、聞き耳を立てないと聴こえないほどのピアニッシモのチェロの旋律が静寂の中から現れると、やがて音楽は祈りのような神秘の合唱へと受け継がれ、徐々に嘆きの度を増していく。
もうこれだけで、私はジワーンとなって涙腺が壊れそうになる。

激しい揺さぶりがこれでもかと盛り込まれているヴェルディ渾身の作品だが、ルイージのアプローチは決して情感任せにしない。タクトの身振りがダイナミックであっても、作品を見つめる視線は極めて冷静。導き出していく音楽は理論的で、説得力を伴い、オーケストラ、合唱、ソロへの統制も厳しく、集中力は最後まで途切れない。イタリア人でありながらドイツで鍛え上げられたその手腕が遺憾なく発揮され、冴えを見せつける。


それから、圧巻、神々しいほどの素晴らしい演奏を聴かせた新国立劇場合唱団。
ちょっと待て。この合唱団、前日、大野和士指揮の東京都交響楽団公演で、ヤナーチェクの難しい作品を披露したばかりではないか。
え? どういうこと? 信じられん。
リハどうやって調整したの? 2チーム編成で対処したのだろうか。そんな大人数をこの団体抱えていたわけ? ホント?

ちなみに、合唱指揮者は両公演とも同じで、冨平恭平さん。
アンビリーバブル、すごいとしか言いようがない。もちろん「プロの仕事」ということなのだろうけど、そんな簡単な一言だけで片付けていいのか、私にはよく分からない。


合唱、オケ、ソリスト、すべてがハイレベルな演奏で整い、上々、というかこれ以上ないくらいの完璧スタートを切ったルイージ。これからのN響との実りあるコラボレーションに幸あれ。


ところで、演奏の話とは別に、N響ではこの日から演奏終了後のカーテンコール時のみ、観客の写真撮影を解禁した。どんどんとSNSにアップしてもらい、宣伝効果を上げようという目論見である。

まあ別にいいんじゃないか、とは思う。

逆に、これまであたかも取り締まりのように、会場の係員がすっ飛んできて撮影行為をやめるよううるさく注意しているのを見て、「いったい何がいけないわけ? 大人げないね」と思っていた。

ただし、だからといって私自身はそれをしようとは思わない。
(絶対にしないとは言えないが)
この日も、みんな夢中になって携帯カメラを差し向けていたが、ここですべきことは拍手である。
拍手は、素晴らしい演奏を称える手段であり、演奏者に対する儀礼と敬意を示すものである。
だから私は、写真を撮るヒマがあったら、一生懸命拍手をする。