2022年8月7日 東京フィルハーモニー交響楽団(フェスタサマーミューザ) ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮 ダン・エッティンガー
服部百音(ヴァイオリン)
ロッシーニ セヴィリアの理髪師序曲
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲
リムスキー・コルサコフ シェヘラザード
桂冠指揮者という名誉ある称号を貰っているというのに、いまいち存在感がピンと来ないエッティンガー。
それもそのはず、東京フィルの指揮者といえば、チョン・ミョンフン、バッティストーニ、プレトニョフの3人で回しているイメージ。なんだか外れちゃってる感じがビミョーに寂しいエッティンガー(笑)。
本人も薄々気が付いているらしく、「ヤバい」と思ったかどうかは知らないが、今回のオファーは「絶対に受けよう」と思ったんだってさ。
ということで、3年ぶりの来日。
御本人によると(プレトークでのお話)、ちょうど今、自らが音楽監督を務めるイスラエル・オペラで「椿姫」の一連の公演を振っている真っ最中だったが、そこを抜け出し、東京に駆け付けたんだと。このサマーミューザが終わったら、直ちにとんぼ返りでイスラエルに戻り、椿姫シリーズの続きを振るらしい。
お疲れ様~。
実は、東京フィルでの存在感がピンと来ない理由がもう一つあって、私から見るとエッティンガーは「オペラ指揮者」なのである。
桂冠指揮者になったということは、東京フィルでそれなりの貢献が認められたからだと思うが、私自身は何を隠そうエッティンガーが振る東京フィルのコンサートをこれまで1回しか聴いていない。数えてみたら合計10回聴いているエッティンガーの公演の残り9回は、すべてオペラなのだ。2005年から2010年くらいの間で、「ニーベルングの指環」チクルスを含め新国立劇場に度々登場していたことが記憶に残る。
元々はベルリン州立歌劇場でのバレンボイムのアシスタントとして修行を積んだエッティンガー。現在、上記のイスラエル・オペラの音楽監督を務め、ナポリ・サンカルロ劇場の首席指揮者に就任することも決まっている。
なので、コンサート指揮者としてピンと来ないのも仕方がないと納得。
なお、これも御本人によると、メンコン振るの今回が初めてなんだって。
ええーっ! うっそだろ!? んなことあるのか!?
やっぱり彼はオペラ指揮者なわけだ。
さて、そんなエッティンガーのコンサート。「時差ボケで寝不足」と語っていたが、眠気を吹き飛ばすかのように濃厚で豪快でドラマチックなシェヘラザードであった。
膨らませ、止め、溜め、走らせ、動かし、音楽を万華鏡のように変化させる。細部のニュアンスの整え方も上手い。
シェヘラザードは物語だ。起承転結があり、起伏があり、クライマックスがある。
情景が浮かぶ演奏。
そこらへん、やっぱりオペラ指揮者としての面目躍如という感じがした。
メンコンのソリスト、服部百音ちゃん。若いが、独特の雰囲気を持ったヴァイオリニストである。
技術的には、はっきり言っちゃうと、彼女くらい弾ける人は他にもたくさんいると思う。
ただ、繰り返すが、彼女は雰囲気を持っている。「ソリストの色気」とでも言おうか。会場の空気を一変させ、ライブならではの緊張感を生み出すパワーを備える。この不思議なパワーこそ、彼女の才能であり、魅力と言っていいのではないだろうか。