クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2022/5/22 東京フィル

2022年5月22日   東京フィルハーモニー交響楽団   オーチャードホール
指揮  チョン・ミョンフン
フォーレ  組曲ペレアスとメリザンド
ラヴェル  ダフニスとクロエ第二組曲、ラ・ヴァルス
ドビュッシー  交響詩 海


チョン・ミョンフンはソウル生まれの韓国人だが、幼少期に家族とアメリカに移住し、そのまま国籍も取得。チャイコフスキー国際コンクールアメリカ代表として出場しているので、私はてっきりアメリカ在住の人なのかと思っていた。
そしたら、聞いた話によれば、彼はパリ在住なんだってさ。東京フィルを振るために来日するのも、大抵はパリからやって来るそうだ。
まあ確かに明らかに欧州での活動が顕著だし、パリ・オペラ座やフランス放送フィルなどの音楽監督を歴任、フランス語も堪能だから、パリに住み、そこを活動拠点にするのは理に適っている。

そうしたことを念頭に置くと、今回のフランス物プログラムは、いわば彼のフィールドであり、ある意味お手の物と言えるのかもしれない。フランスを拠点にして活動する指揮者であれば、そこで見ている日常の景色は、間違いなく音楽観形成に影響を及ぼすだろうし、フランス作品の解釈においてヒントも得やすいだろうからだ。


ということで、果たしてチョン氏が振る音楽の中に、いわゆるフランスらしいエスプリが聴こえてくるのか興味津々だったが、正直に言うと、そういう印象はあまり得られなかった。

悪いという意味ではない。おそらくチョンは、ドビュッシーラヴェルの演奏にあたり、オケに対し「フランスっぽさ」を求めていない。
要求しているのはイメージではなく、演奏の精度や高い音楽性の凝縮だ。それは、別にドビュッシーラヴェルに限らず、常に、どの作曲家の作品においてもそう。アプローチは一緒である。

チョン・ミョンフンの頭の中には、氏自身の理想の響きというのが存在している。そして、ひたすらそれを追求している。彼のリハはかなり厳しいという噂だが、それは理想の響きの構築に対し、一切の妥協を許さないからだろう。

それ故、彼が振ると、東京フィルの演奏水準が一段上がる。オーケストラの集中力が他の指揮者の時とは明らかに異なり、奏者全員がチョン・ミョンフンの目指す先に向かって邁進する。
この光景は美しい。こうした有様を目の当たりに出来るのは、聴衆として本当に素晴らしい体験だ。


「フランスらしいエスプリは聴こえてこなかった」と書いたが、特にドビュッシー「海」では、楽器の鳴らせ方やバランスが精妙で、鮮やかな交響詩にすっかり魅了された。フランスっぽいかどうかは別にして、「こういう演奏をすると、ドビュッシーの作品が圧倒的に輝くよな」という、まさにお手本のような秀演だったと思う。