2022年1月28日 読売日本交響楽団 東京芸術劇場
指揮 井上道義
池田香織(メゾ・ソプラノ)、宮里直樹(テノール)
藤倉大 Entwine
シベリウス 交響曲第7番
マーラー 交響曲 大地の歌
本公演のためにどれくらいのリハ時間が設けられていたのかは、分からない。概して「特別演奏会」みたいなコンサートは、よっぽどの「特別」でない限り、十分なリハ時間が確保されることがないとされる。なので、私は演奏の質はあまり期待せず、純粋に作品の鑑賞を楽しみにしていた。
ところが、蓋を開けてみれば、演奏の質は高く、なおかつ指揮者井上氏の解釈、道筋もはっきり見えた秀演だった。
演奏を手堅くまとめ上げ、本番に向けて完成させていくミッキーさんの手腕は、褒め称えられるべきであろう。
その秘訣の一つとして、彼の極めて分かりやすいタクトがある。
「こうしてほしい」「こういう音がほしい」という要求で、彼は、時に拍子の刻みをそっちのけにし、大胆な身振りで表現を伝えようとする。ご存知、井上流タコ踊りだ。
しかし、ユーモラスにも見えるそうした身振りは、貫徹された指揮者の意図そのもの。あまりにも明確なので、オーケストラは確実に引っ張られる。これぞ井上道義の極意なのだ。
シベリウスは面白かった。
私が愛聴しているCDや、過去に聴いた生演奏では、この曲の中に、漆黒の闇に吸い込まれるかのような深遠さを嗅ぎ取ることが多かった。
しかし、本公演でのシベ7は、各パートの響きを絶妙に浮かび上がらせることで、色彩感に溢れ、闇に向かうのではなく、朝日に輝く自然美のような光と躍動が伝わってきた。これは、新鮮な印象だった。
各パートの響きの絶妙な処理は「大地」においても同様。ソロ(歌)とのバランスが良く、「管弦楽作品でありながら、なおかつ歌曲」という作品の性格をはっきり構築させていた。
特に、この曲の生演奏でいつも大きな問題となる、テノールとオーケストラのバランス。
大抵においてテノールはオーケストラの音量に飲まれてしまい、苦しくなるが、そうしたストレスをあまり感じなかったのは、上に書いた指揮者のバランス配置の賜物か、それとも宮里さんのさすがの腕前によるものか。
もしかして、PAのおかげ??(笑)
ここは宮里さんの健闘ということにしておきましょうか。メゾの池田さん共々、作品や歌詞の懐にまでしっかり踏み込んだ立派な歌唱だった。