クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2022/1/8 東京芸術劇場コンサートオペラ

2022年1月8日  東京芸術劇場コンサートオペラ
指揮  佐藤正浩
管弦楽  ザ・オペラ・バンド
合唱  武蔵野音楽大学
プーランク  人間の声
森谷真理(女)
ビゼー  劇音楽「アルルの女
松重豊(語り)   他


1 プーランク  人間の声
初めてこの作品を聴いたのは、2004年5月。パリ・シャトレ座とジェシー・ノーマンによるプロジェクトで、シェーンベルクの「期待」とダブルビルだった。
ノーマンの歌唱が圧倒的ではあったものの、事前に予習せず、ぶっつけ本番で聴いたこともあり、何を隠そう作品自体には強い印象が残らなかった。

年月が経ち、「カルメル派修道女の対話」が大好きですっかりハマっている今なら、この作品の良さ、面白さを十分に理解することが出来る。響き、音楽の作り方の随所に、「カルメル」との共通性、プーランクの個性を見出せるのである。
考えてみれば、「カルメル」は「ダイヤログ=対話」と言いつつ、実際はモノローグで組み立てられているようなもの。両作品とも、孤独、葛藤、追い詰められた人間の弱さ、怖さといった内面が表出しているので、作風が似てくるのは当然かもしれない。

そうした心の深層劇を一人で背負い、具現化した森谷さんの歌唱は、称賛に値する。

興味深かったのは、モノローグが終始一貫して音楽的で、しっかりとプーランクのスコアに留まっていたことだ。

比較するのはなんだが、私がこれまでに映像などで観てきた他のソプラノ歌手(外国人)は、その多くがドラマチックさを強調した演技と激白により、音楽を飛び越えて、舞台心理劇にフォーカスしようとするアプローチを取っていた。
これはもしかしたら、オペラかコンサート形式かの違いによるものかもしれない。譜面を使用し、演技を最小限にした賜物だろう。
ただし、最初からスコアの忠実性を狙った役作りだったのか、それとも楽譜を見ながら歌った結果、“そうなってしまった”のかは、はっきり言ってよく分からない。

その分、オーケストラの演奏がそうした劇的効果をカバーしていたのは、指揮者による作品全体のまとめ方、仕上げ方が上手だった、ということだと思う。


2 劇音楽 アルルの女
広く知られている組曲ではなく、劇音楽による全曲を聴いたのは初めて。
全曲演奏される機会がほとんどないというのもあるが、そもそも組曲の方だって私はコンサートでほとんど聴いたことがない。初心者向けと言える作品なので、普段自分が通うコンサートのプログラムになかなか入ってこないのだ。

そういうことで、今回は貴重な公演。「アルルの女」の物語も、初めて全容を知りました。
四角関係、魔性の女と清楚な女の対比、そしてクライマックスの悲劇・・・。
なんじゃい、ほとんどカルメンじゃんか(笑)。
ビゼーはこうした物語が好きだったのかねー。

似ていると言えば、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」を彷彿とさせるものもある。
共に、田舎の物語。田舎であるが故に、そこに世間体やムラ意識が存在し、狭い世界の中で歯車が狂いだす。
一方で、カヴァレリアもアルルも、登場人物のキャラクター、そこに寄り添う音楽、こうした素材は純朴そのものだ。特にビゼーの音楽はとことん優しく、のどかで心地良い。

これまで、組曲はてっきり劇音楽の単純な抜粋版なのかと思っていたが、そうではなく、それ用に新たに編曲し直したんだね。オーケストレーションも異なっているし、あのフルートとハープの旋律で有名なメヌエットが劇音楽版に無い、という事実を知ってビックリしました。そうだったのかー。


松重豊さんを始めとする俳優さんたちの朗読、素晴らしかった。普段、テレビや映画などで役者さんたちのセリフの言い回しを何気なく聞いていたが、その話術は高度な鍛錬の上に築かれた芸術品である。思わず惹き込まれた。
「プロだなー」と思いました。