クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1988/8/17 ルツェルン2

ルツェルン二日目。
この日、私の方からOくんに「それぞれ別行動にしよう」と提案した。

もしかしたら、ここまでずっと一緒の行動で、少し遠慮や窮屈といったものが生じているかもしれない。Oくんは決して口に出さないが、もし彼にそうした気持ちが内心に芽生えているとしたら、それは残念なことだ。
それに、旅行期間中、それぞれが勝手気ままに行動するお楽しみの日というのも、一日くらいあってもいい。

更にもう一つ。
私には個人的にやらなければいけないことがあって、何かというと、買い物だった。
親からおみやげを買ってくるように頼まれていて、結構なお小遣い金をもらった。私はそのお金を足しにして、スイスの代表的名産品である腕時計を買い、親へプレゼントしようと思っていた。
こうした個人的な買い物にOくんを付き合わせるのも、なんかイヤだなと思った。

そういうことで、Oくんと別れ、私がまず向かったのが、市内の時計店だ。
親へのプレゼントの時計は、さっさと見つけ、さっさと購入を決めた。どうせ人にあげちゃう物なのだから、あまり迷う必要はない。予算に合致する商品を見つければ、それでいいのである。

買い物はそれで終わりにするはずだった。だが、店内の展示品、きらめくような、まるで宝石のような時計の数々を眺めているうちに、私はどんどんと目が眩んでいく。これはヤバい。

「ううっ、オレっちも欲しいよう・・・・」

高級なオートマチック製はさすがに高嶺の花だが、OMEGAやLONGINESなどのクオーツなら、自分の手に届きそうな商品がある。
「これ、いいなあ」と思って、とある商品を眺めていたら、それを察した店員がショーケースからさっと取り出し、私の腕に巻いて、囁いた。
「Elegant !!」
「Just fit for you!!」

私は陥落した。見事にあっけなく。8万円くらいのオメガの腕時計をカードで衝動買いしてしまった。

スイス製時計の中では決して高い品ではないかもしれないが、社会人二年目の安月給からすれば、これでもかなり頑張ったと言える。十分だ。日頃、辛い仕事に耐えて一生懸命頑張っているのだから、これくらい自分にご褒美をあげたっていい。

買ったばかりのピカピカの時計をさっそく装着し、ウキウキ気分になって、ルツェルン観光を開始。

フィアヴァルトシュテッテル湖の遊覧船に乗り、湖畔に何か所かある船着き場の一つアルプナッハシュタットで下船。そこからピラトゥス山登山電車に乗った。ここは、世界一の急勾配の登山電車として有名だ。

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山頂からの眺望を楽しんだら、今度はロープウェイを使って、反対側に降りる。
私と同乗したのは、お父さんお母さんお子さんの3人のスイス人ご家族。
4歳くらいのお嬢ちゃんが、目の前にいる見慣れないアジア人の私を警戒し、じっとしかめっ面をしているのが分かった。そんな娘さんをリラックスさせようと、パパが‘いないいないばぁ’で変顔を作って笑わせようとしていた。

私は、そのパパと一緒になって変顔を作り、「お嬢ちゃんを笑わせよう」大作戦に加わった。
女の子がみるみるうちに笑顔になり、一気に和んで、私はあっという間にご家族の仲間になった。

ロープウェイを下りた後、仲良しになれたお父さんが私に言った。
「これからどの方面に行くのですか? 市内に戻るのですか? もしよければ、車で送りましょうか?」
好意に甘え、旧市街の中心部まで送ってもらった。
「じゃあね、バイバイ!」と笑顔で挨拶をしてくれた女の子のかわいい表情は、30年経った今でも思い出すことができる。

その後、もう一か所だけ観光して(近郊のトリプシェンにあるリヒャルト・ワーグナー記念館)、ホテルに戻ると、部屋にいたOくんに腕時計をさっそく見せびらかした。

Oくん、「マジかよ~ やられたぜ~!!」と声を上げ、天井を仰ぐ。

私は知らなかったのだが、Oくんには腕時計収集の趣味があって、いくつも持っているのだそうだ。
そんなOくんにしてみれば、自分を差し置いて相棒がスイス製時計を買った、というのが、とにかく心穏やかでない。
ましてや、そんな自分に対して時計を見せびらかし、自慢するなど、言語道断(笑)。ケンカ売ってるのかオヌシ、みたいな。

相当悔しかったみたいで、負けず嫌いの彼は、この後、旅行の最後の最後にリベンジを果たすことになる・・・。(この件については、最後に触れることとしよう。)