クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1988/8/13 出発、スイスへ

いきなり暗雲が立ち込めた。
LOTポーランド航空は定刻どおり順調に成田を出発したのだが、最初の経由地ワルシャワ国際空港で躓いた。乗継ぎのフランクフルト便に遅延が発生したのだ。新たな出発時間がなかなか定まらず、空港ロビーでじっと待たされる。
ようやく搭乗となり、フランクフルトに向けて離陸となったが、この遅延によって、フランクフルトで次のチューリッヒ便に乗り換える時間の余裕が、大幅に削られた。

フランクフルト国際空港に到着。チューリッヒ便の出発まで、あと30分しかない。
飛行機を降りると、そこに地上職員が待ち構えていた。
チューリッヒ行きのゲートは◯◯番です。さあ急いで!」

我々は慌てて走った。そして、滑り込みに成功。
よかった、間に合った! これで目的地チューリッヒにたどり着けるぞ。
しかも、乗り換えたスイス航空、非常に快適!
客席はきれい、シートの座り心地もいい、スッチー(キャビン・アテンダント)の制服も洗練されているし、機内食もグッド。(乗っている時間はわずか1時間程度の短距離航路便なのに、この当時は国際線ということで、ちゃんとフル機内食が提供された。)

さすがはスイス航空、一流航空会社だよな。やっぱ格安のポーランド航空とは違うよな。
快適な空の旅を満喫している優雅な自分・・そんな気取ったポーズの写真をOくんに撮ってもらったりした。私は完全に浮かれていた。

もうすぐチューリッヒに着陸、という時である。突然、あることをハッと思い出し、気が気でなくなった。
荷物である。
ところでさあ、この飛行機に我々のバッグは積まれているわけ??
フランクフルトで、乗り換え時間がたった30分しかなかったんだぜ!? 我々は走ったんだぜ!?  荷物も走ってくれるのか?
おいおい、大丈夫かよ~。

チューリッヒ国際空港のバゲージクレームのターンテーブルから我々の荷物が出てきた時は、心底ホッとした。
と同時に、驚いた。
たった30分で、よくもまあ荷物を仕分けたものだ。フランクフルト空港の荷物管理システム、すごいじゃないか。感心した。
(もしこの時、荷物が出て来ずロストバゲージになっていたら、きっとパニックになるくらい焦っただろう。)

時刻は夜10時近くになっている。我々はタクシー乗り場へ直行。車をつかまえた。ドライバーは女性だった。

「グリンデルワルトまでお願いしたいのですが・・。」
「グリンデルワルト?? は? え?」
怪訝な顔で、「それってどこ?」みたいな感じで聞き返してくる。

「いや、あの、グリンデルワルト・・」
我々は持参したガイドブック上の地図に指をさす。
一瞬絶句した彼女は、「ちょっと待って・・・」と、自分の車から離れていく。同じく客待ちをしていた同僚ドライバーに声をかけ、何やら話をし始めた。やがて、スイス全土の地図を取り出し、そこでまた同僚とああだこうだと話し始めた。

不安に駆られながら、じっと待機する我々・・・。
まあな。たしかに、な。
チューリッヒ市内に向かうのとはわけが違う。そこから100キロ以上も離れた山間の村に行けとお願いしているのだ。しかも、夜遅く。「マジかよ」と思うのは、当然だろう。もしかして断られてしまうのだろうか・・・。

しばらく待たされたが、どうやら行ける算段が付いた模様だ。にこやかに「オーケーですよ」と声がかかり、後部座席に乗り込むと、すぐにエンジンが始動した。

そこからは、およそ2時間弱のドライブ。
途中で一度ガソリン補給。ドライバーがセルフでガソリンを注入しているのを見て、びっくり。現代では当たり前の光景だが、30年前の日本にセルフスタンドは存在しなかった。
再びタクシーは目的地へひた走る。
山麓リゾートに向かっているのだが、夜遅いので周囲は真っ暗、本来なら美しいはずの景色はまったく見えない。どこに連れていかれるのかさえ分からないという有様だったが、ここはとにかくドライバーを信頼するしかない。それに、長旅の疲れと時差もあって、我々は座席で居眠り半分。どうしようもなかった。

グリンデルワルトに到着したのは、ほとんど深夜0時に差し掛かった頃だった。ドライバーは我々が泊まるホテル名と住所を聞き出すと、道行く人に尋ね、付近を一軒一軒探して見つけてくれた。
いやードライバーさん、ありがとね。助かりました。ここからまた2時間かけてチューリッヒに戻るのですか? 本当にご苦労さま。

ホテルの玄関は真っ暗だった。レセプションには誰も人がいない。おや~??
すぐに、カウンターに私の名前が記されたカードが置かれていることに気が付いた。手に取ると、そこに我々の部屋の鍵が付いていた。
よかった! 深夜の到着だったが、予約はちゃんとキープされていたのだ。

(これもまた、今考えると、ドタキャンされず、よくまあキープされていたなと思う。中級クラス程度のホテルのレセプションが深夜早朝クローズするのは別に珍しくないので、それはまあいいとして、よくまあ忘れずに鍵を置いてくれたと思う。もし置かれていなかったら、やはりめちゃくちゃ焦ったことだろう。)

大変な長旅だったし、初日からいくつもの試練に遭遇したが、こうして我々は目的地にたどり着いた。
だが、感慨には浸れない。寝なきゃ。今日はこれでおしまい。とにかく寝ましょう。