クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2020/2/9 フィデリオ

2020年2月9日   チューリッヒ歌劇場
ベートーヴェン  フィデリオ
指揮  マルクス・ポシュナー
演出  アンドレアス・ホモキ
オリヴァー・ヴィドマー(ドン・フェルナンド)、ヴォルフガング・コッホ(ドン・ピツァロ)、アンドレアス・シャーガー(フロレスタン)、エンマ・ベル(レオノーレ)、ディミートリ・イヴァシュチェンコ(ロッコ)   他


仰天の幕開けだった。オペラは、いきなり物語のクライマックスに突入した。
フロレスタンが殺されようとした瞬間にレオノーレが飛び出し、ドン・ピツァロと対決する場面。最大の見せ場をいきなり冒頭に持ってくる唐突さ。
普通にフィデリオ序曲が演奏されると思っていたので、不意を突かれた。だが、インパクトは絶大だ。観客の目を一気に惹き付ける劇的なドラマトゥルギー

ドン・ピツァロがフロレスタンとレオノーレの二人にピストルを向けたところで、大臣の到着を知らせるトランペットのファンファーレが鳴り響く。ご存知、レオノーレ序曲第3番の中にもあるモチーフである。
すると、なんとそのまま一気にレオノーレ序曲第3番のオーケストラ演奏へ。その演奏の間に、物語を振り出しのヤッキーノとマルツェリーネのやりとりの場面に戻していく・・・。

なるほどー、そうきましたか・・。へぇぇ~。

舞台装置はほとんど何も無し。閉鎖空間を作る箱の中で物語は進行し、時折り背面の壁がパカンと開閉する。セリフもほぼ全カット。
ベートーヴェンの音楽、出演歌手の歌、登場人物の演技だけという構成に、オペラ全体がキュッと引き締まる。必然的に音楽がすべての中心となり、観客は物語の有り様を想像力で補いながら、舞台に集中する。スペクタクルな舞台装置という見た目でごまかそうとせず、オペラの原点に立ち返り、その魅力に迫る。
シンプルさの追求で演出上の密度を高めつつ、音楽との相乗効果を上げた演出家ホモキの狙いは完璧にはまった。見事な舞台だ。

音楽が中心である以上、上演の成否のカギを歌手が握っていると言っても、決して過言ではない。
今回、ハイレベルの歌手が揃ったのは大きい。
「揃った」ではなく、「揃えた」と言うべきか。劇場は抜かりがない。

コンサート形式上演の際によく言われることだが、ちゃんとした歌手が揃い、指揮者ががっちりサポートし、オーケストラをまとめ上げれば、オペラというのは黙っていても完成する。まさにそのことを地で行き、証した公演である。

特に、コッホ、シャーガー、ヴィドマー、イヴァシュチェンコらの錚々たる男性歌手陣が、凄まじい。
レオノーレ役のベルは、当初キャストであったA・カンペの代役だったが、健闘はしていたものの、重唱などのアンサンブルではちょっとバランスが悪い。
ただ、私はこれまでにロンドンで「マイスタージンガー」のエヴァ、「タンホイザー」のエリーザベト、ケルンで「アラベッラ」タイトル・ロールを聴いているが、着実に成長していると感じる。イギリス人だが、本格的なドイツ系歌手の道を歩んでいることを確証した。

ポシュナーが指揮する公演を鑑賞したのは初めてだったが、手堅く、そして広がりのあるベートーヴェンの音楽を構築していたのは好印象だった。

ただ、もう一度言うが、この日はやっぱり男性歌手陣。実に強力だった。