2019年11月11日 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 サントリーホール
指揮 クリスティアン・ティーレマン
ブルックナー 交響曲第8番
ブログタイトル「クラシック、オペラの粋を極める!」が自らの人生の探求なのだとしたら、この公演は一つの到達点なのだと思う。生涯を賭けて追い求めていた芸術が、ここに極まった。
その探求は、胸を高鳴らせ、心を躍らせるものだった。
例えてみる。
厳重な扉の中にある保管庫から取り出された一冊の古書物。それはブルックナー自筆のフルスコア。
襟を正し、白手袋をはめて、そのページを静かに開くのは、この日の指揮者だ。
丁重にスコアをめくりながら行っていたこと。それは作曲家と対話することであり、作品が発する言葉を心の耳で聴くことであった・・・。
つまり、ティーレマンは、作品に語らせていた。ブルックナーの真髄を丁寧に取り出し、繊細に音を紡いだ。
世界最高のオーケストラが語り部となり、崇高なる演奏美の極致をもって指揮者に応えた。
そして我々聴衆は、心眼を開き、無の境地になって、高揚に身を委ねた。
強奏の後のパウゼに現れた残響、フィナーレの後に漂った静寂。
その時、はっきりと、たしかに、我々はブルックナーの姿が見えた。
奇跡の瞬間、だった。