クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

ジェシー・ノーマン

ジェシー・ノーマンの訃報を、Yahooニュースのトピックスで知り、何とも言えない思いが沸き起こる。
私にとってジェシー・ノーマンは「偉大なるソプラノ歌手」というただ一言に尽きるが、その存在価値はクラシック音楽界の中でしかないものと思っていた。クラシック音楽愛好家以外はほとんど知らないだろうと思っていた。

でも、もしかしたら、そうした狭い範疇を越えた、もっと大きな音楽界において傑出した偉人だったのかもしれない。

特に、アメリカではそうだっただろう。
グラミー賞受賞者であり、大統領就任式での歌声披露、アトランタ五輪開会式での歌声披露、きっと誰もが一目置く歌手だったに違いない。

「オペラ歌手」という肩書で語られるが、活躍の場の中心が歌劇場だったかと言えば、決してそうではなかった。オペラにも出演していたが、持ち役は限定的だった。
それは、輝かしくて神々しい声質に相応する役があまりないというのもあるが、巨体であったが故に損していたことも、きっとあったのではないかと思う。
例えば、カルメンはせっかくレコーディングまでしているのに、舞台に立つことがなかったのは、歌「劇」の残酷な現実だろう。

だが、ノーマンの場合、そんなことは些細なことであった。別に舞台がすべてではなかった。彼女には「神の歌声」とまで讃えられるほどの絶対的な才能が備わっていたのだ。
そんな彼女に「オペラ歌手」という称号はいらない。「歌手」、もしくは「アーティスト」とだけ称すれば、それで十分なのだと思う。

私にとってのノーマンの思い出と言えば、来日によるリサイタルやモノ・オペラ公演などの印象も残っているが、それよりも、一つの録音と映像のインパクトの方が強烈だ。

1987年ザルツブルク音楽祭カラヤンとの奇跡の共演。トリスタンとイゾルデの「愛の死」を歌った演奏のライブ録音。これが、究極の絶品である。

この公演の様子については、カラヤンとコロンビア・アーティスツ・マネージメントが制作した「カラヤン・イン・ザルツブルク」というドキュメンタリー映像に収められている。この映像が、クラシック界を牛耳るマネージメント会社の販売世界戦略の一環として制作されたのは有名な話だが、そういう胡散臭さを忘れてしまうくらい、ノーマンの歌唱が素晴らしい。
この公演を生で聴けた人は幸せだが、その人達が今回のノーマンの訃報に接した時、きっと彼女の絶唱を思い浮かべたことだろう。(その人達がまだ生きていれば、の話だが。)