クラシック、オペラの粋を極める!

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2009/7/6 読響

2009年7月6日 読売日本交響楽団定期演奏会  サントリーホール
指揮 パオロ・カリニャーニ
清水和音(ピアノ)
ラヴェル ピアノ協奏曲
ホルスト 組曲惑星


 高校の時、明るい性格で人付き合い良く、よく遊んでいて、普段は冗談ばっかり言って、決してガリ勉タイプには見えないのに、なぜかテストでは良い点を取るヤツがいた。「いったいいつ勉強してんの?」って聞いたら、「そりゃ家に帰れば、一応はまじめに勉強してるわさ。」との返事で、「まあそうだろうねー」なんて感心してた。

 スキンヘッドのイタリア人指揮者パオロ・カリニャーニを見ていると、なんかそいつを思い出す。

 演奏中も笑顔を絶やさず、各パート奏者に対する目配せは欠かさない。グイグイ引っ張るのではなく、おおらかにサポートしながら「一緒に音楽を作っていきましょう」みたいなタイプ。奏者がミスをしても、笑って許してくれそうだ。

 一方で、スコアの読みは深い。また、演奏中にどこで何が起こっているのかを常に正確に把握している。ニコニコしているのは、事前の入念な研究の結果生じた余裕に違いない。

 見かけの柔和さにだまされてはいけない。試しに録音を聴いてみるといいだろう。あるいはコンサートの最中に、目をつぶって聴いてみるのもいいだろう。音楽の構成、構築力は実に確かな物がある。

 この日の読響はテレビ収録ということもあってなかなかの熱演であったが、近年の読響のハイグレードなレベルに比べると、テクニカルの面でもう一つだった。それともカリニャーニのやさしい笑顔に気が緩んでしまったか?(笑)


 ところで、カリニャーニというと、つい思い出して笑ってしまうことがある。

 2006年4月、フランクフルトオペラで彼が振るワーグナーパルジファルを観に行った。(1999年から2008年まで、彼は同歌劇場の音楽監督だった。)

 「舞台神聖祝祭劇」と銘打ったこのオペラ。厳粛さを醸し出すため、フランクフルトでは無粋な拍手を断つべく、演奏開始前の指揮者登場セレモニーを省略させた。開演時間になると、客席、舞台、ピット内が真っ暗になり、いきなりそこから前奏曲の深遠な冒頭音が鳴り始めた。

 指揮者は、つまり、最初からそこに居なければならなかった。

 で、カリニャーニさん、観客が徐々に客席に集まり着席しだした頃からこっそり登場し、指揮台の脇にちょこんと座った。あぐらをかき、客に気付かれないように背中を丸め、顔をうつむき加減にして縮こまっていた。その姿はまるでかくれんぼをしている子供のようで、まあはっきり言って、かっこ悪かった(笑)。本人も恥ずかしそうにしていて、時折オケ奏者と目が合っては照れ笑いをしていた。
 私は一階席の一列目だったので、ピット内を覗き込み、これらの状況をつぶさに観察してしまった。威厳のある指揮者だったら、こんな格好はイヤだろうと思った。カリニャーニさんはいい人なのだなと思った。

 こうみえてもウィーンやミュンヘンなどの超一流歌劇場にも登場するマエストロだ。今後ますます巨匠の道を歩んでいくかもしれない。だけど、きっといつまでも「いい人」のままのような気がする。