2009年4月25日 バーデン州立歌劇場(カールスルーエ)
ヴェルディ ドン・カルロ(イタリア語5幕版)
指揮 ジャスティン・ブラウン
演出 ロバート・タンネンバウム
コンスタンティン・ゴルニー(フィリッポ2世)、バルバラ・ドブルザンスカ(エリザベッタ)、キース・イカイア・パーディ(ドン・カルロ)、ザビーナ・ヴィライト(エボリ公女)、アルミン・コラルチク(ポーザ公爵)他
新演出の初日、いわゆるプレミエ。
最近はここ欧州でもプレミエだからといって観客が華やかに着飾ることは少なくなっており、私も「大丈夫だろう」と侮ってノーネクタイで出掛けたら、結構みんなそれなりにちゃんとした格好をしていて驚いた。
演奏が開始されて、想像していたいつものドンカルロとは違うメロディーが流れ始めて戸惑う。おっと、5幕版だったのね。
舞台はとてもシンプル。
シンプルな舞台は、一つは予算軽減、もう一つは演技や心理描写をフォーカスしやすくするという一石二鳥で、特にマイナー劇場でよく採り上げられる手法である。
天井から釣ってあって高さが調節できるセミステージと二層になっていて、登場人物は主ステージとセミステージを行き来する。セミステージは時に段や傾斜を作ったりして舞台に変化をもたらしている。また、二層にすることによって人間の階級や社会構造の格差別化が図られ、うまく出来ている。
舞台奥と両脇にスクリーンが設置されているが、途中まではおよそ効果的に使われておらず、もったいないと思っていたら、演出家はこのスクリーンの使いどころをきちんと考えておりました。もちろん第3幕(4幕版だと第2幕)第2場の火刑シーン。アイーダの凱旋の場になんとなく似ている音楽的に盛り上がる場面だ。そして演出家もこのシーンに最大級の刺激を込めた。
華やかな音楽に乗り、フィリッポ2世に招かれた客として大手を振って登場してきたのが、いわゆる‘独裁者’たちだ。ヒトラー、サダム・フセイン、ホメイニ、カダフィ大佐、金正日、毛沢東、カストロ議長、さらにはオサマ・ビン・ラディンまで。例のスクリーンでド・アップで映し出すと共に、彼らのお面を被ったキャラクターが登場。ダンスをさせたり滑稽な格好をさせたりする。(上の写真にもちょこっと写ってますね)
要するに絶対王政君主フィリッポ2世が異端者を排除して処刑する様は、彼ら独裁者がやっていることと何ら変わりがないという演出家の強いメッセージだろう。
アイデアとしてはなかなか面白いと思った。実を言うと、私は別演目の別演出(コンヴィチュニー)で、やはり時の政治家のお面を被ったキャラクターを登場させて滑稽な踊りをさせるというのを見たことがあったため、やや二番煎じの感を免れなかった。だが、感想としてはそれ以上でもそれ以下でもなし。
しかし多数の観客は違った。
ものすごい拒絶反応!凄まじいほどのブーイング!
最後のカーテンコールで演出家が現れたときなど、ステージに物が投げ込まれるのではないかとさえ思った。
ナチスを経験しているドイツ人にとっては、独裁と排他主義は心の奥底に刺さったトゲのようなもので耐えられなかったのだろう。
ま、その怒濤のごとく騒然となった様はいかにもドイツの世紀末レジーテアターらしくて、見ていて面白かったけどね。演出家が挨拶に出てくる初日を見られてよかったと思いました。