クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

キーシンリサイタル会場で

 先日のキーシンリサイタルでは、プログラム終了後、演奏者に対してたくさんの花束&プレゼント攻勢が見られた。
 どちらかといえば男性アーティストに対して女性ファンが贈る光景を多く目にする。フルートの貴公子E・パユのリサイタルも同様だったし、ヴァイオリンの寵児である五嶋龍くんなんかは、もうすごいとしか言いようがなく、アイドル並だった。

 若くてかっこいいアーティストの専権なのかもしれないが、キーシンがかっこいいかどうかは意見が分かれるところ(笑)。また決して若くないポリーニも、以前に比べればずいぶん減ったが、それでもプログラム終了後にプレゼント攻勢に会う。

 つまり、きっとこうだ。
 彼女たちは今現在楽器を習って練習していたり、あるいは以前にかじった経験があるアマチュアの心得者だ。そんな彼女たちにとって、自らの能力では到底及びもしないテクニックと崇高な芸術を生み出すスーパートッププレーヤーは、憧れであり、アイドル。コンサート会場はそんなアイドルと時間や空間を共有することが出来る特別な場所だ。

 本来なら、奏者と聴衆のコミュニケーションは、演奏を通じてのみ可能なはずだ。
 だけど、もし、もし、出来ることなら・・・一瞬だけでもいいからそのアーティストを独占したい。そしてそれが可能な手段こそが花束・贈り物作戦なのである。

 だから、彼女たちはみんなで一緒に渡そうとはしない。単独で渡すことにこだわる。渡すチャンスとタイミングをしっかり計っている。「ここで渡そう!」と立ち上がろうとしたら別の人が立ち上がった、そしたらそこは見送って次のチャンスを待つわけね。

 まあねえ、気持ちはよく分かるよ。分かるからとても微笑ましいよ。
 演奏者だって悪い気は決してしないだろう。面倒くさがることもしないだろう。

 ただ、ね、延々と繰り返される贈呈の儀式に我々一般聴衆はその間ずっと付き合わされるわけで、そうなるとねえ、やっぱりねえ・・・。


 ところで、オペラの公演ビデオ(DVDなど)を見ていると、カーテンコール時に客席から歌手に向かって花束が投げ込まれるシーンをよく目にする。

 オペラの場合、客席とステージの間にオーケストラピットがあるため、やむを得ず投げ込むしかないという事情があることは確かだろう。
 また、馬蹄形のステージ脇あたりのギャラリー(ガレリア)席からだと、近くて単純に投げ込みやすいという事情もあるだろう。
 さらには、花束を所持していること自体、最初から投げ込むことを予定して買い込んできているもので、決して衝動的な行動ではない。

 だが、観ている方はこれらについてうんざりしない。なぜかというと、‘私’という個人的感情がこもったプレゼントではなく、「ブラヴォー!」という喝采が、花という‘形’に変わった物だからだ。だから、もらった歌手達はものすごくうれしそうな表情をする。

 演奏者はきっと、‘私’がこもったプレゼントをもらうよりも、万雷の拍手と、ブラヴォーが飛び交う喝采と、スタンディングオーベーションの方がうれしいに違いない。
 ならば、勇気を持って「ブラヴォー!」と声を出してみたらどうだろうか?
 最後の最後まで立ち上がって拍手を送り続けてみたらいかがだろうか?

 きっとそこに、演奏者も聴衆もすべての人が幸せになれる瞬間が訪れると思うよ。


 話は変わりますが、明日から旅行に行ってきます。短期です。カールスルーエで「ドン・カルロ」、リヨンで「ルル」、ミュンヘンで「イェヌーファ」を観てきます。
 29日に帰国するまでの間、しばしおいとまを。