2009年4月19日 エフゲニー・キーシン ピアノリサイタル サントリーホール
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
プロコフィエフ バレエ音楽「ロメオとジュリエット」より
プロコフィエフ ピアノソナタ第8番「戦争ソナタ」
ショパン 幻想ポロネーズ
ショパン マズルカ集より、練習曲集より
なんだかんだ言っても、私はオーケストラの交響曲、管弦楽曲やオペラが好きで、コンサート会場に向かうのもその手の物が圧倒的に多い。ピアノソロは決して嫌いではないが、リサイタルはあまり行っていないのが現状である。
そんな中で、来日すればついついチケットを買ってしまうピアニストが二人いる。ポゴレリッチ、そしてキーシンだ。二人に共通するのは、「類い稀なる天賦の才能」である。
タイプは全然違う。
ポゴレリッチについては、はっきり言って怖い物見たさ(笑)。血が噴き出しているグロテスクな傷口の割れ目を、目を背けつつ、つい見てしまうみたいな・・・。
キーシンの面白いところは、来日のたびに印象が異なるし、同じ日のプログラムの曲によっても印象が変わる点だ。天国にいるかのような光が差す演奏をしたかと思えば、まるで悪魔が乗り移ったかのような危うい演奏もする。華麗なテクニックを前面に押し出す演奏をしたかと思えば、巨匠風の泰然とした演奏もする。「こんなに凄い演奏は聴いたことない!」と驚くこともあれば、「あれ?どうしちゃったの?」みたいな冷めた演奏をすることもある。
キーシンの公演についつい行ってしまうのは、以上のような毎回違う多様な演奏スタイルで「今度はどういう風になるのだろう?」と気になってしまうからだ。
さてと、私のキーシン評は以上のようなわけであるが、で、今回はどうだったかというと、やや‘凄み’が薄れたものであった。
プロコフィエフは良かった。プロコ独特の色が鮮明であった。だが、続くショパンはキーシン独自のピアニズムはあまり感じられず、やや期待はずれ。
まあこれも、上記に書いたキーシンの多様な演奏スタイルの一つといえば一つ。今回がたまたまそういう演奏だからといって、いつもそうとは限らない。数年後に全く同じプログラムを聴いても、今回とは全然違う印象を抱かせることになろう。
だから、キーシンは「行かずにはいられない」ピアニストなわけだ。